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2020/03/30

クスノキの番人/東野圭吾 人間ドラマ小説の感想

◆読んだ本◆
・書名:クスノキの番人
・著者:東野圭吾
・初版出版社:実業之日本社
・初版発行日:2020/3/17


◆おすすめ度◆
・心あたたまる人間ドラマ度:★★★★
・クスノキの謎とは何?度:★★★★
・主人公の玲斗、ちょっと大人になる度:★★★


◆感想◆
職場を解雇され、やさぐれた気分で盗みを働いた主人公の玲斗。逮捕され、起訴を待つ身となった彼に、千舟と名乗る女性が現れて…

千舟と名乗る女性は玲斗の伯母で、彼に弁護士をつけ助けてくれる。が、その代わり「クスノキの番人」をするよう命じられる。
いったい「クスノキの番人」とは何なのか?
クスノキに祈念すると、何が起きるのか?
伯母の千舟は何者で、玲斗に「クスノキの番人」をさせる意図は?
といった展開。

玲斗の生まれ育ちや、千舟との関係、クスノキに祈念しにくる人たちの様子などが描かれるが、中盤まではなんだかとっちらかった感じ。
どこまでクスノキの謎を引っ張るんだろう、なんていう雰囲気も。

でもさすがは東野圭吾。
とっちらかったと思った展開が、スルスルときれいにまとまって、なんだかいい話に。
主人公の玲斗が、へなちょこの若者から大人の男性に変貌したり、クスノキに祈念する人たちのドラマチックな絆が描かれたり。

ファンタジーな設定の心温まる小説。
ミステリー要素は少なめです。


2020/03/02

残業禁止/荒木源 お仕事小説の感想

◆読んだ本◆
・書名:残業禁止
・著者:荒木源
・初版出版社:KADOKAWA
・初版発行日:2019/9/21


◆おすすめ度◆
・お仕事小説 建設業現場編度:★★★★
・現場監督に超おすすめ度:★★★★★
・働き方改革の実現へ向けて度:★★★★


◆感想◆
チェリーホテル・横浜ベイサイド新築工事の現場事務所長である成瀬和正。人員不足に短納期、副所長の大田が倒れるなど気苦労が絶えない業務のさなか、長時間残業の規制も厳しく行われるようになり…

著者の荒木源は『ちょんまげぷりん』の著者。ユーモラスな小説かと思いながら軽い気持ちで読み始めたら、これがなかなか骨太のお仕事小説。
とくに建設業に関わっているサラリーマン(特に現場監督)には、激しく共感するシーンが連発の小説。
朝のラジオ体操や朝礼から始まって、工程管理や労務管理など、現場監督経験者なら「そうそう」とうなずくことばかり。
さらに残業しない部下に要領の悪い新人。重機の事故に住民からのクレーム。
現場事務所内の人間関係や頻出するトラブルなどが、とってもリアルに描かれる。

そんな様々なトラブルが起きるなか、本社から残業規制が!
所長の成瀬はどうやってこの難題を解決するかのか? あるいはしないのか!
うっちゃって家に帰るか? 部下に丸投げか!

たりない工期に人員、顧客からの理不尽な要求、そういったものにプライドと意地、サービス残業でしのいできたこの業界。
しかしこれからは、新しいやり方を模索し進めていかなければならないという著者の思いが、主人公の成瀬の行動に現れている。
へなちょこな「働き方改革」のビジネス書より、本書のほうが心に響く。

現場監督に超おすすめのお仕事小説。
そうじゃない人にはややおすすめです。


2020/02/29

膠着/今野敏 お仕事小説の感想

◆読んだ本◆
・書名:膠着
・著者:今野敏
・初版出版社:中央公論新社
・初版発行日:2006/10/1


◆おすすめ度◆
・軽めのお仕事小説度:★★★
・珍接着剤の開発プロジェクト度:★★★
・明日の仕事の活力になる度:★★★


◆感想◆
老舗の糊メーカーに就職した丸橋啓太は、やり手の営業・本庄ともに、新しい接着剤のプロジェクトチームへ参加することになるが…

営業の新人・丸橋啓太とやり手の本庄がメインの、糊メーカーを舞台にしたお仕事小説。
新しい接着剤には重大な欠陥があり、それをプロジェクトチームがどうやって解決するのか、というのがメインの展開。
また同時期に勃発した外資系企業からのTOBや、社内にいると思われるスパイ、色っぽい真奈美先輩からのお誘い。
様々な波乱要因をはらませながら、新人・丸橋啓太のどうする?どうする!という葛藤も。

読み始めるとササーッと読み終わっちゃう軽めの小説。
仕事に対する心構え、プロジェクト会議の様子など、新社会人むけの要素はあるものの、中学生くらいの若い人が読んでも面白いかも。
接着剤に関する専門用語も、物語にリアリティをもたせる効果十分。理系の中学生が興味を持って読むことができそうだし。

カタルシスもある明るい結末だし、翌日の仕事の活力になりそう。
あるいは、小説と現実のギャップにますます凹むか。

今野敏といえば警察小説が思い浮かぶけど、こんなお仕事小説も書いていたんですね。


2020/02/26

准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき/澤村御影 ユーモアミステリー小説の感想

◆読んだ本◆
・書名:准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき
・著者:澤村御影
・初版出版社:KADOKAWA
・初版発行日:2018/11/22


◆おすすめ度◆
・ユーモアミステリー小説度:★★★
・本格推理/民俗学的薀蓄度:★★
・笑える凸凹コンビ/愉快なホームズとワトソン度:★★★


◆感想◆
民俗学者の高槻彰良准教授が、学生アルバイトの深町尚哉と怪事件の謎に迫るミステリー短編連作集。

「第一章 いないはずの隣人」
誰もいないはずのアパートの隣室から奇妙な音が…
「第二章 針を吐く娘」
呪いの藁人形を見てしまった女性の周りに、なぜか針が…
「第三章 神隠しの家」
廃屋に肝試しをしにいった女性が神隠しに…

本格的なミステリー要素は少なくて、民俗学的なうんちくも薄め。
謎解きよりも、准教授・高槻彰良のがっかりなイケメンぶりや、まるで愛嬌のある犬のようなはしゃぎぶりなど、准教授のキャラクターを楽しむ小説か。
あるいは、各章の事件はおまけで、本当の怪事件は、准教授・高槻彰良と学生・深町尚哉の過去の奇っ怪な体験や不思議な能力にあったりするのか。

准教授の瞬間記憶能力と尚哉の嘘を聴き分ける能力は、いったいどこから?
二人の関係はどうなる?
研究室の生方瑠依子先輩は本当に美人なのか?
という気になる疑問点は次巻で。


◆関連記事◆
イケメンわんこ准教授×嘘を聞き分ける大学生が、民俗学の知識で怪事件を解決! 『准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき』/ダ・ヴィンチニュース

2020/02/24

地面師たち/新庄耕 クライムノベルの感想

◆読んだ本◆
・書名:地面師たち
・著者:新庄耕
・初版出版社:集英社
・初版発行日:2019/12/5


◆おすすめ度◆
・クライムノベル度:★★★
・地面師たちのびっくりな詐欺の手口度:★★★
・詐欺師たちの執念と狂気度:★★★


◆感想◆
積水ハウスが地面師に55億円以上を騙し取られるという詐欺事件を題材にした、リアルなクライムノベル。

以前「地面師」という本が面白いらしい、という噂を聞きつけて調べたとき、本書「地面師たち」も面白いという口コミが。
似たような署名の「地面師」と「紙面師たち」。
違いは何かというと、「地面師」はノンフィクションで「紙面師たち」はフィクション。
でもどっちも「積水ハウスの地面師による巨額詐欺事件」を扱っているのだ。

本書「地面師たち」を読むと、「地面師」に書かれていたことの後追い記事のようで、既読感満載。
まったく架空の人物を登場させることで、フィクションなりのひねりを利かせた展開や結末にしているものの、地面師というトリッキーな詐欺事件のもつインパクトは弱くなってしまった。
「ええっ!あの積水ハウスの事件は、そうなっていたんだ!!」という感想が、「そうなんだね」くらいにトーンダウン。
先にに本書「地面師たち」を読んで、つぎに「地面師」を読めばよかったかも。
そうすれば、「地面師たち」に書いてあったあの部分は、本当にあったことだったんだ!とびっくりすることができたかもしれない。
ちょっと残念な読み方をしてしまった。

本書の参考文献に「地面師」が記載されていて、そりゃそうだよね。
羆撃ち」「サバイバル登山入門」も参考文献になっていて、著者の読書傾向に親近感を感じる。



◆関連記事◆
地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団/森功 ノンフィクションの感想/サイト内

2020/02/16

ドミノin上海/恩田陸 ドタバタエンターテイメント小説の感想

◆読んだ本◆
・書名:ドミノin上海
・著者:恩田陸
・初版出版社:KADOKAWA
・初版発行日:2020/2/4


◆おすすめ度◆
・ドタバタエンターテイメント度:★★★★
・ユニークな登場たち全員が主人公度:★★★★
・所々で発作的に大笑い度:★★★★


◆感想◆
上海で一番早い寿司デリバリーを目指す市橋健児。訳ありのアートを制作した現代美術家の毛沢山。愛するイグアナを料理されてしまったホラー映画監督のフィリップ。上海動物園からの脱出を目論むアウトローパンダの厳厳…
個性あふれる登場人物たちが、しだいに上海のホテル「青龍飯店」に集まってきて…

25人と3匹の個性あふれる登場人物たちが、上海で繰り広げるハチャメチャ大騒動!

27人と1匹の登場人物が巻き起こすパニックコメディ「ドミノ」の続編です。
続編ですが、前作を読んでいなくても思いっきり楽しめるから大丈夫。
登場人物が25人と3匹もいて心配ですが、全然こんがらないから大丈夫。
次々と場面転換しとってもスピーディー。次は一体どうなるのかも気になってどんどん読めちゃう。
おまけに小ネタも随所に散りばめられていて笑えます。

一番気に入ったのが、アウトローパンダの厳厳。
なまじの人間より悪賢いアウトローです。人間ぽいです。悲哀も感じます。

全員が主人公の展開をいったいどうやって着地させるのか?
結末は、読んでのお楽しみ。盛り上がってます。

絆がテーマだったり、心がほっこりしたり、逆に心に重かったり。ウエットな小説もいいですが、カラッと明るく楽観的なエンターテイメントもいいですね。
シリーズ化するんじゃないかという雰囲気も匂わせていて、楽しみが1個増えました。


◆関連記事◆
「運命のドミノ倒し」は終わっていなかった…! バラバラの人生を過ごす“全員主人公”の群像劇、待望の続編/ダ・ヴィンチニュース

2020/02/03

雲神様の箱/円堂豆子 ファンタジー小説の感想

◆読んだ本◆
・書名:雲神様の箱
・著者:円堂豆子
・初版出版社:KADOKAWA
・初版発行日:2020/1/23


◆おすすめ度◆
・大人でも面白いファンタジー小説度:★★★★
・主人公の少女・セイレンの成長(本巻では成長した感じはしませんが)物語度:★★★
・スリルとアクション度:★★★


◆感想◆
古代の日本を舞台にしたファンタジー小説。
霊山に棲む『土雲の一族』の少女セイレン。ある日一族の長から、下界に棲む雄日子という若き王の守り人となるよう言われ、里を離れることになるが…

「双子の妹」というだけで忌み嫌われている少女のセイレンが主人公。
成り行きで雄日子の守り人となるが、その境遇から抜け出したいと思ったり、逆に守り人の仲間と一緒に雄日子を守りたいと思ったり、揺れ動くセイレンの気持ちが描かれる。

並行して、若き王の雄日子が倭国に対して蜂起しようとする様子が。
湖国を出発した雄日子だったが、雄日子を亡き者にしようとする策略に翻弄される。そこでセイレンが予想以上の活躍をする。

雄日子は策略に対抗できるのか?
セイレンは雄日子を守り通すのか?
揺れる少女の心と、ブレぬ雄日子の信念。物語はどう展開するのか!?
というところでおしまい。
お楽しみは次巻までおあずけです。

とりあえず新刊.netで円堂豆子さんを登録しました。続巻が楽しみです。
続巻が待てない、どうしても先が知りたい、という方は、カクヨムで読めます。
無料です。


◆関連記事◆
雲神様の箱/カクヨム
「災いの子」と呼ばれた少女と反逆者として命を狙われる若き王が織りなす、古代日本ファンタジー小説/ダ・ヴィンチニュース

2020/01/26

幻夏/太田愛 サスペンス小説の感想

◆読んだ本◆
・書名:幻夏
・著者:太田愛
・初版出版社:角川書店
・初版発行日:2013/10/29


◆おすすめ度◆
・叙情的ミステリー小説度:★★
・郷愁漂うサスペンス度:★★★
・冤罪の責任は誰が取る?度:★★★


◆感想◆
探偵の鑓水に、23年前に失踪した息子の尚を探してほしいとの依頼が舞い込む。依頼した母親の香苗は、鑓水に家の中を案内し鍵を渡すと、そのまま姿を消してしまった…

23年前に失踪した尚は、ランドセルに失踪する翌日の時間割と、流木に不思議な記号を残していた。さらに尚は、警察官・相馬の幼馴染だったという設定。
そして前作「犯罪者」でも活躍した、相馬、探偵になった鑓水、アルバイトの修司の3人が、事件を解決していくという展開。
尚の行方を調べるうちに、彼が抱えていた驚くべき真相が明るみに!みたいな。

これは謎解きミステリーというより、叙情的な社会派サスペンス小説ですね。
尚が失踪した理由を追う展開や、冤罪をテーマにした社会派な側面はあるものの、著者が描き出したのは相馬と、尚と、尚の弟の拓の3人の、相手を大切にしようとする気持ち。
相手を思いやる気持ちが、自らを悲惨な状況に追い込む結果に。
その背景には、日本の司法制度の歪みが。

叙情的で郷愁に満ちたミステリー小説が好きな方には、主人公尚や、真実を知ってしまった拓の苦しさ、幼馴染の相馬の心の葛藤にグッとくるはず。
ロジックを重視する本格ミステリーファンは、冤罪の経過や犯人がターゲットととした3人の設定に、不自然さを感じるかも。

理屈より感情、ナゾより動機が優先です。そのほうが心に響く物語になりますし。
でもそこが、本作を高く評価する人が多いにもかかわらず、このミスなどで上位に食い込まなかった理由かもしれません。

尚、拓、相馬の切なくやるせないシーンを、優しい母親の描写が引き立てています。