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2020/08/03

ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~/三上延 ミステリー小説の感想

◆読んだ本◆
・書名:ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~
・著者:三上延
・初版出版社:KADOKAWA メディアワークス文庫
・初版発行日:2020/7/18


◆おすすめ度◆
・古書にまつわるミステリー小説度:★★★★
・横溝正史っぽい凝った構成度:★★★★
・おばあちゃん(篠川智恵子)と孫(篠川智扉子)が急接近度:★★★
・夫婦(篠川栞子と大輔)はラブラブ継続度:★★★★


◆感想◆
横溝正史の幻の作品といわれていた『雪割草』をめぐり、家族の確執が浮かび上がるミステリー小説。

帯には「シリーズ再始動!」の文字が。
出版社も旨味のあるシリーズは諦めないということでしょうか。
読者は楽しみができて嬉しい限り。
大変なのは著者ばかり、みたいな。

シーズン2は、扉子が主役になるのかと思いましたが、まだまだ子供のようで、栞子と大輔がかかわった過去の事件を振り返る、みたいな展開です。

横溝正史の小説にちなんだ構成や、幻の作品といわれていた『雪割草』の詳細など、いろいろ調べてミステリー小説に仕上げるのは大変だっただろうと思わせる凝った内容。
横溝正史の『雪割草』がテーマで、横溝ファンには嬉しい内容ですね。

プロローグとエピローグでは、おばあちゃん(篠川智恵子)と孫(篠川扉子)が急接近する様子が描かれていて、今後のシリーズの展開に含みをもたせてます。
(扉子は今のまま素直な本好きに育って、腹黒い智恵子に屈しないでほしいところ)

家族のジメっとした確執や、ちらっと登場する篠川智扉子のダークなイメージで、雰囲気が暗くなりがち。
でもそんな雰囲気を塗り替えるように、栞子と大輔はライトノベルのノリで初々しくラブラブ。
そこがこのシリーズのいいところの一つですね。


◆関連記事◆
横溝正史、幻の小説の謎を「ビブリア古書堂」が探る 横溝研究者も納得の新作/Book Bang
一冊まるごと「横溝正史」がテーマの最新作を著者と横溝研究者が深堀!? 『ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~』刊行記念対談/Book Bang

2020/07/30

三体Ⅱ 黒暗森林 SF小説の感想

◆読んだ本◆
・書名:三体Ⅱ 黒暗森林
・著者:劉慈欣
・初版出版社:早川書房
・初版発行日:上: 2020/6/18 下: 2020/6/18


◆おすすめ度◆
・壮大なスケールのSF&ファンタジー小説度:★★
・ドラマチックな展開度:★★★
・ユニークな設定度:★★★


◆感想◆
『三体』三部作の第二部。
巨大艦隊で地球に侵攻してくる三体人。地球より遥かに進んでいるテクノロジーを持つ彼らに対抗するため、「面壁者」を選抜、三体人を出し抜く策を計画するが…

わかりやすいストーリー、「面壁者」というユニークな設定、宇宙規模の「黒暗森林」という考え方。
どれも面白そうなんだけど、なんだか没入できないもどかしさ。
SFよりもファンタジー寄りな印象を強く感じたせいかもしれません。
 主人公羅輯のたどる運命とか、「荘顔」との出会いとか。
 ロジカル重よりエモーショナル重視ですね。

それでも、ラストは細かい伏線も、大きな伏線も回収して、第三部につなげる力業。

ネットで本書の感想などを読むと、ほとんどの人がベタ褒めです。
私が特異なのでしょうか。


◆関連記事◆
【今週はこれを読め! SF編】三体人の圧倒的有利に抗うため地球側が仕掛ける面壁計画 - 牧眞司/WEB本の雑誌

2020/06/08

きたきた捕物帖/宮部みゆき 時代小説の感想

◆読んだ本◆
・書名:きたきた捕物帖
・著者:宮部みゆき
・初版出版社:PHP研究所
・初版発行日:2020/5/29


◆おすすめ度◆
・ほのぼの時代小説度:★★★★
・キャラクターが素晴らしい度:★★★★
・『陰徳あれば陽報あり』な人間関係がステキ度:★★★★★


◆感想◆
本所深川を舞台に、不思議な出来事や事件を、見習い岡っ引きの北一が解決していくほのぼの時代小説。

『桜ほうさら』や『初ものがたり』ともちょびっとリンクしていたりして、どうやら『三島屋変調百物語』とならぶシリーズになるよう。
「三島屋変調百物語」がゾワゾワするホラー色が濃いのに対し、本書はほのぼのしていて心安い。
なんといってもキャラクターが素晴らしい。
登場人物一覧がなくても人物の名前と性格がすんなり頭に入ってくるのは、人物描写が秀でているからだなあ。

主役級の千吉親分がいきなりフグに中って亡くなっちゃうというとんでもな出だし。それでいながら千吉親分の人柄や性格が、次第に分かってきちゃうから不思議。
振り売りの北一も、おたまに負けるなと応援したくなる魅力的な若者。
気安く面倒見のいい青海新兵衛、得体のしれない銭湯の釜炊き喜多次、千吉親分のおかみさんで目が見えないのになんでも分かっちゃう松葉。

事件を解決する面白さもさることながら、キャラクターで読ませる時代小説でもある。
いつまでも物語の世界に浸っていたくなるし、将来は北一とおみつが所帯を持って、文庫屋の仕事も順調に伸びて、千吉親分のあとを継いで岡っ引きになるんだろうなあ、なんていう未来予想図を思い浮かべちゃうほどキャラクターが生き生きしている。


2020/06/06

ニッポン脱力神さま図鑑/宮田珠己 写真集の感想

◆読んだ本◆
・書名:ニッポン脱力神さま図鑑
・著者:宮田珠己
・初版出版社:廣済堂出版
・初版発行日:2020/5/27


◆おすすめ度◆
・ユニークな神さま写真集度:★★★★
・ヘタウマぶりが異次元な神さま度:★★★★
・子供が見たら泣きそうな神さま度:★★★


◆感想◆
日本の各地にある神様のうち、「田の神さあ」「鬼コ」「国東仁王さま」「鹿児島仁王どん」「人形道祖神」「肥前狛犬」の6つについて、そのヘタウマな魅力を紹介するという写真集。
ヘタウマ絵好きの著者が選んだ、よりすぐりの、真剣に下手な神様たちが素晴らしく笑えてなごめる。

どこにでも神様がいる日本では、誰もが神様を造形して祀っていたんだなあ。これが生活に根付いた信仰のあり方なのかも。なんていう考えも浮かぶものの、そのヘタウマぶりに仰け反る。
なかでも「田の神さあ」の異世界ぶりがすごい。
やっちまった感あふれる表情に、著者の感性が伺える。

歴史的背景も調べてあったりして、著者は興味が向かわないようだが、民俗学的な資料としても有益なんじゃないかと、ちらっと思ったりして。

人生に行き詰まったとき、本書に登場する神様にお願いすれば、ご利益があること間違いなし。
少なくとも、ヘタウマ神さまに祈願する自分が笑えてきて、自分の悩みがちっぽけであることに気付かされる。


◆関連記事◆
『ニッポン脱力神さま図鑑』の今日の神さま|宮田珠己/cakes(ケイクス)

2020/05/27

きのうの春で、君を待つ/八目迷 恋愛小説の感想

◆読んだ本◆
・書名:きのうの春で、君を待つ
・著者:八目迷
・初版出版社:小学館
・初版発行日:2020/4/17


◆おすすめ度◆
・激甘恋愛小説度:★★★★
・ファンタジックな設定がファンタスティック度:★★★
・とっても一途な主人公度:★★★★


◆感想◆
東京から、かつて住んでいた離島・袖島に家出してきた船見カナエ。そこで幼馴染の保科あかりと出会うが…

前作『夏へのトンネル、さよならの出口』が青春ど真ん中小説だった八目迷の新作は、タイムリープを題材にした激甘の恋愛小説。
主人公は幼馴染の船見カナエと保科あかり。
幼馴染だからこそ、なかなか恋愛に発展しない関係。
二人の心のふれあいやすれ違い、思っていながらなかなか言い出せない言葉、そんな甘酸っぱくほろ苦い想いがいっぱいの展開。

そこに船見カナエが摩訶不思議なタイムリープにはまってしまうという出来事と、保科あかりの兄が亡くなってしまうという事件が重なる。

二人の関係はどうなる?
なぜあかりの兄は亡くなったのか?
カナエがタイムリープを利用してできることは?

甘く切ない恋愛要素と、タイムリープというファンタジックでミステリーな要素が、読者の興味を引き続ける。
登場人物は少ないし、思わせぶりなセリフなんかもあって、なんとなくあかりの兄が亡くなった事件の真相は想像できるけど(すれっからしのミステリマニアが想像するようなマニアックな真相ではありません)主題はミステリー的な謎にあるのではなく、真相が二人に与える影響にあり。

彼女を助けようと一生懸命な船見カナエに好感が持てます。
梶尾真治の傑作『クロノス・ジョウンターの伝説』を思い起こさせる一途さです。
激甘すぎて読んでいて恥ずかしくなっちゃいます。
多分著者も、恥ずかしがりながら書いたんだと思います。
でもいくら恥ずかしくっても、他人には分からないのが読書のいいところです。


2020/05/23

侠飯/福澤徹三 グルメ小説

◆読んだ本◆
・書名:侠飯
・著者:福澤徹三
・初版出版社:文藝春秋
・初版発行日:2014/12/4


◆おすすめ度◆
・ユニークな任侠グルメ小説度:★★★★★
・思わず作ってみたくなる料理度:★★★★
・就活する大学生への人生訓度:★★★


◆感想◆
就職活動をする良太は、偶然ヤクザの抗争に巻き込まれる。組長の柳刃に脅され、近くの自宅マンションに柳刃を匿うことになるが…

テレビドラマ化や漫画化された任侠グルメ小説。
ひょんなことから大学生の良太とヤクザの柳刃が共同生活を送ることに。
ところがこのヤクザの柳刃、料理がめっぽう上手な男で、能書きをいいながら激旨な料理を作る。
作り方を詳しくしゃべるから、まんまレシピにもなっているという構成。

ネットで検索すると「侠飯を作った!」という記事や画像がわんさか出てくる人気ぶり。
確かに描写される料理がうまそう!
これだけ詳しく書いてあれば、作れそうな気にもなるし。

そんなグルメ小説としての面白さもさることながら、柳刃が就活中の良太に忠告する人生訓が的確。
まだ若い良太は柳刃の厳しいアドバイスに怒ったりするものの、納得せざるを得ない世間の厳しさを経験する。
良太の成長物語にもなっているということですね。

任侠小説でグルメ小説で成長小説でもあるというユニークな『侠飯』。
コロナ禍の巣ごもり生活でくさくさしているときは、こういう深刻にならずに読める小説がいい。
現在は第6巻まで刊行されてます。
2巻から6巻まで大人買いしてしまいました。


◆関連記事◆
侠飯/ウィキペディア

2020/05/13

無人島に生きる十六人/須川邦彦 冒険実話の感想

◆読んだ本◆
・書名:無人島に生きる十六人
・著者:須川邦彦
・初版出版社:講談社
・初版発行日:1943年


◆おすすめ度◆
・和製『十五少年漂流記』度:★★★★
・ハラハラドキドキうるうるのサバイバル生活度:★★★★
・昔の人は立派です度:★★★


◆感想◆
明治32年、日本の帆船・龍睡丸が時化にあい難破。近くの無人島に十六人が上陸しサバイバル生活を送ることに。この実話を、少年向け冒険小説ふうに記した物語。

子供向けの冒険物語と侮るなかれ、大人が読んでも十分面白い。
無人島に上陸した十六人の男たちが、どうやって共同生活を送ったのか。
水は? 食料は? 寝るところは? 着るものは!
次々と持ち上がる問題に、船長をはじめ全員が一位団結して立ち向かう。

なんたって島での生活をするにあたり決めた約束が
 一つ、島で手にはいるもので、くらして行く。
 二つ、できない相談をいわないこと。
 三つ、規律正しい生活をすること。
 四つ、愉快な生活を心がけること。
サバイバル生活の約束事じゃないよね。
今現在の風潮なら、規則を無視するやつとか、喧嘩をするやつとか、食料をがめて自分だけ助かろうと画策するやつとか絶対いそうだけど、そうはならない。
みんなが相手のことを考えながら共同生活を送るという、「一人のすることが、十六人に関係しているのだ。十六人は一人であり、一人は十六人である」という考えの大人たちばかりなんである。
昔の人は立派です。

また、子供だったら思わず友人にその知識を自慢したくなるサバイバル術も随所に。
ほんのわずかな油が波をしずめるとか。(本当?)
ウミガメのお腹には真水が入っているとか。(マジ?)

厳しいサバイバル生活を描写している割には、ほんわかした雰囲気の文章だし、挿絵も可愛らしい感じ。
子供が読んでドキドキワクワクすることがあっても、悪夢を見そうな酷いシーンは無いから安心。

青空文庫で読めば無料です。


◆関連記事◆
無人島に生きる十六人/青空文庫
無人島に生きる十六人/今月の新刊採点・WEB本の雑誌

2020/05/09

暗鬼夜行/月村了衛 サスペンス小説の感想

◆読んだ本◆
・書名:暗鬼夜行
・著者:月村了衛
・初版出版社:毎日新聞出版
・初版発行日:2020/4/20


◆おすすめ度◆
・中学校を舞台にしたサスペンス小説度:★★★
・事件はどんどん迷宮に度:★★★
・終盤で印象が一変してびっくり度:★★★★★


◆感想◆
薮内三枝子の読書感想文が、駒鳥中学の優秀作として読書感想文コンクールに出品される。その感想文に「盗作」の疑惑が…

中学校を舞台にした、読書感想文の盗作疑惑をメインにしたサスペンス小説。
SNSに投稿された「藪内の読書感想文、昔の入選作のパクリだって」という告発は、いったい誰が。
その告発は本当なのか。
教師や生徒だけでなく、保護者をも巻き込んでいく盗作疑惑。
事態は混迷を深めるばかりで、解決の糸口もみいつからない。

犯人は誰? 動機は? 事件はどう収束するのか? という展開のサスペンス小説。

シリアスなタッチで事件が展開していくが、びっくりするような大事件にはならないし、派手な展開もないし、著者にしてはこじんまりしたサスペンス小説だなぁ、なんて思っていたら終盤で大化け。
それまでの印象を一変させる展開に。
まさに「暗鬼」の為せる技。

人の心は闇で満ちてますね。
身近な人でも、心の奥では何を考えているのか分かりませんね。
怖いですね。

随所に著者自身の「文学」や「作家」に関する考えや心の叫びとも取れる表現もあったりして、さらに物語が「暗鬼」にまみれて、一種の凄みがある。