だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 最近は新旧歴史時代小説やエンターテイメント、ライトノベルにも手を伸ばして節操のない状態に。趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

アウト オブ チャンバラ/戸梶圭太

◆読んだ本◆
・書 名:アウト オブ チャンバラ
・著 者:戸梶圭太
・出版社:講談社
・定 価:1,600円
・発行日:2004/11/4

◆評価◆
・江戸時代の変なやつら度:★★
・激安な俗物達のチープな戦い度:★★
・ん?どうしたんだ?度:★★★

◆感想◆
貧乏長屋に住まっている日雇い稼業の平六。仕事にあぶれフラフラしている時、錆びた刀を拾う。平六は侍になったつもりで、おっかなびっくり町に出るが…

江戸時代の町人を主人公にした短編集。
舞台が江戸時代になっても、相変わらずの激安男達が登場。
ハチャメチャぶりも相変わらずだが、ちょっと理解に苦しむような展開や、アンチクライマックス風の落ちが、ややせつない。

ん?と思ったのは、最後の書下ろしの短編。
出だしは他の短編と変らない装いだったが、中盤からなにやらファンタジックな展開に。
どうしたんだトカジ!
何かとてつもない小説を書こうと考えているのか!
それとも、ただの気紛れか?

アウト オブ チャンバラ/戸梶圭太の表紙

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藁の楯/木内一裕

◆読んだ本◆
・書 名:藁の楯
・著 者:木内一裕
・出版社:講談社
・定 価:1,500円
・発行日:2004/10/1

◆評価◆
・スリルとサスペンス度:★★
・犯人護送劇度:★★★
・クズのような犯人の命を守る意味度:

◆感想◆
日本財界の大物中の大物である蜷川。彼の孫娘が殺害される。犯人は、七年前に小学生の女の子を殺害した罪で服役し、仮出所したばかりの男だった。蜷川は孫を殺された怒りから、犯人に10億円の懸賞を賭けた殺人依頼をする…

2人の子供を陵辱し殺害するという、人間のクズのような犯人清丸。
福岡に出頭してきた清丸を、東京まで護送する警察。
有象無象が10億という懸賞金に目が眩み、清丸を殺そうと付けねらう中、どのようにして東京まで護送するのか?!

テーマや展開は単純で明快。登場する人物も描写通りで分かりやすい。
人間のクズである清丸を東京に護送する警察官の奮闘と、クズを守らなければならない理由に苦悩する姿。
エンターテイメントのようでシリアスなようで。どっちつかずのような。
せっかくスピード感もそこそこある展開なんだから、B級サスペンスに徹したほうが、手に汗にぎる展開になったと思う。

クズのような犯人でも、その生命を守らなければならない、といった倫理観にこだわり過ぎると(これがないと物語が破綻するけど)、せっかくのスピード感が失われ、細部の矛盾点が目に付きはじめる。
やっぱりスリルとサスペンス小説は、強引なまでのスピードが大切。
そういった意味では、本書はスピード違反10キロオーバーくらいか。

藁の楯/木内一裕の表紙
 

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明日の記憶/荻原浩

◆読んだ本◆
・書 名:明日の記憶
・著 者:荻原浩
・出版社:光文社
・定 価:1,500円
・発行日:2004/10/25

◆評価◆
・記憶を失うということ度:★★★★★
・ブラックユーモアと悲愴感度:★★★★
・切実な恐怖度:★★★★★
・泣ける(「アルジャーノンに花束を」風度:★★★★

◆感想◆
広告代理店に勤める佐伯は、先月50才になったばかり。まだまだ後輩に仕事を任せるわけにはいかないと奮発しているが、最近有名俳優の名前や部下の名前をど忘れする。さらには、自宅を出る時、家の鍵をかけたかさえ良く思い出せないように…

パソコンで文章を書くためか、最近漢字を書けないことがしばしば。これじゃいかん!と思い、直筆で日記を書くようにしたんだが、なんと本書の主人公が同じことを!
ショック!
不眠症、めまい、倦怠感などの自覚症状がある人は、アルツハイマーかも?

本書はそんな若年性アルツハイマーをテーマにした物語り。
主人公の佐伯が自分の記憶力に疑問を持ちはじめ、過労のせいにしたり病院へ行くのを拒んだりする様は、妙に切実。主人公に感情移入しすぎてしまう。
若い読者にはブラックユーモアと映るシーンも、主人公と同年輩の読者にはとても笑い事ではない。

さらに、大きなプロジェクトや娘の結婚といったイベントを目前にした主人公は、記憶が無くなっていくという病気と、戦い、もがき、苦しむが…

佐伯の妻や娘、会社の同僚や顧客等の登場人物も、よく描かれている。
ストーリーに破綻がなく、描写にも瑕疵がないのは、著者の特筆。
陰々滅々となりそうなテーマを、著者持ち前の軽妙でユーモアのある筆致により、明るさと思いやりのある物語に転換している。
また、今までの著者の本には薄かったインパクトが本書にはある。
(自分の記憶力に疑問があるせいか)
著者の本の中では、最高作。

ラストも涙せずにはいられない。

明日の記憶/荻原浩の表紙
 

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夏の名残りの薔薇/恩田陸

◆読んだ本◆
・書 名:夏の名残りの薔薇
・著 者:恩田陸
・出版社:文芸春秋
・定 価:1,857円
・発行日:2004/9/30

◆評価◆
・幻想的ミステリー度:★★
・真実はどこに/それぞれが真実度:★★
・心理劇度:

◆感想◆
山奥の豪華なホテルで、毎年行われるパーティー。主催者は沢渡三姉妹。彼女達の栄華と権力を誇示するようなパーティーで、事件が起きる…

物語は、どこか舞台劇のようで内省的。
愛憎、恐怖、妬み、利害、そんな登場人物の感情が、透明感と寒々しさを持った文章で描かれる。
恩田陸ならではの文章。

ミステリーのような構成と展開はあるが、ミステリー小説ではないな。
ファンタジーでもないし、いってみれば妄想/幻想のようなものか。
ミステリーとしての結末はあるものの、キッチリカッチりの論理的なミステリー小説だと思って買うと、壁に投げ付けたくなるかも。
自分は恩田陸ファンなので、そこそこ面白く読めた。

それよりも、著者があとがきで触れている「去年マリエンバートで」という映画。本書と深く関わっているというが、いったいどんな映画なのか、興味を惹かれる。

夏の名残りの薔薇/恩田陸の表紙
 

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万物理論/グレッグ・イーガン

◆読んだ本◆
・書 名:万物理論
・著 者:グレッグ・イーガン
・出版社:創元SF文庫
・定 価:1,200円
・発行日:2004/10/29

◆評価◆
・バリバリのコアなSF度:
・偏見に満ちたジェンダーからの逃避度:★★
・まぬけな非科学的似非宗教度:

◆感想◆
すべての自然法則を統一する「万物理論」。その完成をめざす物理学者3人が、それぞれの学説をたずさえ、学会に臨む。映像ジャーナリストのアンドルーは、学会の開かれるステートレスへ向かうが…

現実に研究が行われているという「万物原理」(超ひも理論を超える理論?)。
本書では、この原理自身が大きなテーマとなり、さらにジェンダーや非科学的疑似宗教などのサブテーマがちりばめられている。
本の帯には「究極のハードSF」とあるが、読んだ印象はもっとどろどろした人間臭いもの。身体性や宗教といった面からのアプローチが目につく。

しかし、どうも読んでいて馴染めないところが多かった。
「万物原理の完成」という社会現象から派生する似非科学的宗教や、主人公が巻き込まれる特異な集団とのサスペンスタッチの展開が、いまいちしっくりこない。
物語としては、この訳の分からん集団は必須なのだが、展開はSFじゃないよね?
サスペンスタッチの展開の割には、あんまりハラハラドキドキしなかったし。

また妙に「人間くさい」ところも曲者。
本書のSF的な仕掛けに人間臭さは不可欠だけど、表層的な感情(愛や憎しみなど)の描写は、「気合い!」が入っていない。
文章も妙に長いところがあり、主語と目的語を探しているうち、何を記述しているのか分からなくなる。 (自分の読解力が無いだけか)

「しあわせの理由」を読んだ時も、あんまり共感できなかったが、どうも自分とは反りが合わない作家みたいな。
グレッグ・イーガンというSF作家は、世界的に高く認められている作家。
その著書に感銘できないのは、自分のSF的素養が貧弱だからか?

万物理論/グレッグ・イーガンの表紙
 

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審判の日/山本弘

◆読んだ本◆
・書 名:審判の日
・著 者:山本弘
・出版社:角川書店
・定 価:1,600円
・発行日:2004/8/31

◆評価◆
・ハードSF度:★★★
・論理的ホラー度:★★★★
・すべては人知を越えた意志により?度:★★★

◆感想◆
ほとんどが書下ろしの、ミステリー&ホラータッチのSF短編集。

ミステリーと呼ぶには物足りなく、ホラーと呼ぶにはロジカルなSF。
以前読んだ「神は沈黙せず」のテーマである、超越者の存在みたいのが、随所に現れる。それと、世界の虚構性。
超越者とか虚構性自体は、まあSFとしては常套的テーマで、それをどう扱うかが作者の腕の見せ所。 本書では、SF的テーマにミステリーやホラーの味付けを濃くつけ、読者の興味を惹き付けている。うまい!
これならSFファンじゃなくても、充分楽しめる。

気に入ったのは、文章や展開、表現の論理的なところ。
論理的というと、ゴチゴチで無味乾燥の文章を思い浮かべるが、そうではなくすんなりと文章が理解できるような感じ。

特にホラーなんて、論理で割り切れないものを扱っているのに、それさえ小説の展開として論理的に納得してしまう。
(「夜の顔」なんか、ホラーなのにSFとして読んでしまう。著者のSF作家としての強引さのためか?)

このへん、自分の感性にピッタンコ!

短編の命ともいうべき「落ち」も、うまい。
(「時分割の地獄」は、絶妙)

SFファン以外の人に、多く読んでもらいたい小説だ。

審判の日/山本弘の表紙
 

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