だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 最近は新旧歴史時代小説やエンターテイメント、ライトノベルにも手を伸ばして節操のない状態に。趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

泳いで帰れ/奥田英朗

◆読んだ本◆
・書 名:泳いで帰れ
・著 者:奥田英朗
・出版社:光文社
・定 価:1,400円
・発行日:2004/11/25

◆評価◆
・アテネオリンピック観戦記度:★★
・著者の野球への思い入れ度:★★★
・オリンピックの思い再び度:★★★

◆感想◆
出無精で野球好きの著者による、アテネオリンピック観戦記。

オリンピック。
そういえば今年はオリンピックの年で、そういえば柔道をテレビで見て、そういえば感動したっけなぁ。
ついこの間の事が遥かむかしに感じるのは、年をとるごとに一年が短く感じるのと同じか?

それはさておき、本書を読むとオリンピックでにわか柔道ファンになっていた自分を思い出す。
井上康生の敗退、阿武の金メダル、塚田の逆転勝ち。
本書の中でもそれらが臨場感ある筆致で描かれている。現場ならではの描写で感動的。選手の心理を深読みした考察は、なるほど!と思うところも。

他にもマラソンや陸上競技の観戦についても書かれているが、著者の主眼は野球。

著者には「野球の国」というエッセイ集もあり(著者の暗めの性格があらわれている一冊)、野球には人並み以上の熱い思いがあるよう。
オリンピックでの長嶋ジャパンの試合は、どうにも納得できなかったようで、著者の怒りが炸裂。ヘコミぶりも面白い。
「野球の国」とは全体的な印象も大きく違い、大変明るくユーモラス。
たぶん「こんな暗いエッセイじゃいかん」と反省したんだろう。そのかいあってか、本書はけっこう笑える。

泳いで帰れ/奥田英朗の表紙
 

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笑犬樓の逆襲/筒井康隆

◆読んだ本◆
・書 名:笑犬樓の逆襲
・著 者:筒井康隆
・出版社:新潮社
・定 価:1,500円
・発行日:2004/12/5

◆評価◆
・スーパーエッセイ度:★★★★
・作家&俳優筒井康隆の周辺度:★★★
・世の中、間違っとる!度:★★★★

◆感想◆
「噂の真相」に連載していたエッセイ集。
久しぶりに筒井康隆の、毒のあるエッセンスを楽しめる。

断筆宣言がらみの話題で始まり、芝居、戦争、自宅周辺の飲食店、自著の話と盛り沢山。
酒鬼薔薇聖斗の出現に社会の暗部を見い出し、小学生の化粧を肯定し(ロリコンの気があるのか?)、シラクとブッシュの間抜け対談を虚構し(笑いながらも数%の真実味が)、9・11同時多発テロの巨大なビルが崩壊する様を面白がるスーパーぶり。
いずれもストレートな文章のようで、ひねったりブラックだったりと、著者の小説と同じような読み方ができて嬉しい。

印象深かったのは、「パプリカ」を書いている時、一夜にして白髪となり、また「パプリカ」を読んだ女性が、精神的ダメージを受け入院したところ。
「パプリカ」がどんな小説だったか記憶はおぼろだが(過去に読んだ本のほとんどが、記憶の彼方に…)、こんな話を読むと、再読したくなる。
他にも、「わたしのグランパ」「魚籃観音記」「悪魔の辞典」などにふれており、筒井フリークには見逃せない。

笑犬樓の逆襲/筒井康隆の表紙
 

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長恨歌/馳星周

◆読んだ本◆
・書 名:長恨歌
・著 者:馳星周
・出版社:角川書店
・定 価:1,600円
・発行日:2004/11/30

◆評価◆
・クライムノベル度:★★★
・裏社会の掟とそれを操る男度:★★★
・限り無くウエット度:★★★★

◆感想◆
新宿歌舞伎町。揺頭という麻薬の売買をめぐり、東明会と中国マフィアの韓豪が密談をしていた。そこにいきなり現れた2人組がショットガンを乱射。殺された韓豪の部下である武基裕は、犯人を探そうと…

不夜城三部作完結編登場! といいながらも前作の内容を忘れているし。
馳星周の小説は、横溝正史や渡辺美里(違うか?)みたいに、どれを読んでも同じような印象。人間のドロドロした感情や暴力、裏切り。
本書も歌舞伎町を舞台に、中国マフィアやヤクザ、それに関わるうさん臭い人々が登場し、掟破りの殺し合いが始まる。

人間の恨み妬み嫉みやらをまぜながら、裏社会をリアルに描写する手腕は、依然健在。それに、最近の著者の小説に顕著な、主人公のナイーブな心理描写がいい。

中国の奥地から身分を偽って日本人となった武基裕。幼い頃の寒村での暮しと彼を慕う少女の姿。幾たびもフラッシュバックするように描かれる、幼い頃の仲の良い二人の姿が涙を誘う。
こんなに女々しいやつが、クライムノベルの主人公になりうるのかと思うが、なぜか納得できる小説になっている。

少女の名前が「小文」というのも、なんか可愛く思えてるから、漢字って不思議。大人となって登場する小文もいい味だしてるし、他の脇役達が虚無的なやつらばかりで、このあたりは主人公と対照的。
バランスがうまくとれているということか。

この手の小説に酒の描写は付きものだけど、酒のかわりに葉巻とウーロン茶が登場。けっこう新鮮で印象的だった。
葉巻とか吸ってみようかな。

長恨歌/馳星周の表紙
 

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愚か者死すべし/原りょう

◆読んだ本◆
・書 名:愚か者死すべし
・著 者:原りょう
・出版社:早川書房
・定 価:1,600円
・発行日:2004/11/30

◆評価◆
・ハードボイルド度:★★
・スルドくクールな探偵度:★★★
・先の読めない展開度:★★

◆感想◆
新宿署から容疑者を護送しようとした時、何者かの狙撃を受ける。銃弾の一発は容疑者に当り、もう一発は容疑者を庇おうとした刑事に当る。探偵の沢崎は狙撃犯の車を追跡するが…

はじめのセンテンスが、
「…ドアを開けたとき、どこかに挟んであった二つ折りの薄茶色のメモ用紙が、翅を動かすのも面倒くさくなった厭世主義者の蛾のように落ちてきた」!! 出だしからハードボイルド全開。
過去に傑作(むかし読んだ著者の本が、面白かったのかどうか思いだせないけど)を送りだしてきた著者の、意気込みが現れているよう。

物語は、探偵の沢崎が狙撃犯を追ううちに、政界の暗部を担う老人の誘拐事件や、警察やヤクザとの駆け引きに関わったりと、テンポよく進むが先が読めない展開。
この展開に読者を引き付ける要素が少ないためか、はたまたハードボイルドなのに胸に響くようなセリフやシーンがないせいか、少々退屈に。
探偵沢崎のクールな思考とスルドい観察力はハードボイルドっぽいが、いささか出来過ぎの感じも。

最後にすべての関係性が明らかになるけど、推理小説のような布石もなく、解決に伴うカタルシスも少なめ。
それより、中盤に登場する設楽老人の話が、なかなか面白い。
実話に則しているのかどうか分からないけど、政界の裏情報を握る老人というのが、本当に居そうで。この老人の話だけでも、読んでみたい。

全体的には、ハードボイルドというより、60度くらいのお湯で長時間茹でた卵みたいな。

愚か者死すべし/原りょうの表紙
 

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アイム ソーリー、ママ/桐野夏生

◆読んだ本◆
・書 名:アイム ソーリー、ママ
・著 者:桐野夏生
・出版社:集英社
・定 価:1,400円
・発行日:2004/11/30

◆評価◆
・悪魔のような女性度:
・心の壊れる様度:
・破綻している行動がリアル度:★★★★

◆感想◆
孤児達の保育施設に勤めていた美佐江は、自分が面倒を見てきた25才年下の稔と所帯を持つ。ある晩、2人で焼肉屋に行くと、かつて施設にいたアイ子と遭遇し…

娼館で、誰の子と分からぬまま育ったアイ子。彼女は環境に合わせて生活する方法を学ぶとともに、自分に都合の悪い者は消し去ることで生き長らえてきた。
そんなアイ子は、焼肉屋の店員、家政婦と流浪しながら、行き当たりばったりに凶行に及ぶ。
その様は、彼女の行動と同じように、とても理不尽で場当たり的。犯罪を犯した後の事や逃げる方法などは、アイ子の思考に無い。

物語の脈絡の無さと、主人公アイ子の非論理的思考&行動が、薄ら寒くなるほどリアル。著者ならではの、身体的小説。
表紙の写真も、物語の内容と見事に合っていて無気味。

前作より一歩進んだ小説世界を味わえる。

アイム ソーリー、ママ/桐野夏生の表紙
 

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アキハバラ@DEEP/石田衣良

◆読んだ本◆
・書 名:アキハバラ@DEEP
・著 者:石田衣良
・出版社:文芸春秋
・定 価:1,619円
・発行日:2004/11/25

◆評価◆
・おたく青年の青春度:★★
・中学生向け勧善懲悪の電脳バトル度:
・アキバの現在度:★★

◆感想◆
秋葉原のコスプレ喫茶でたむろする吃音症のページ、不潔恐怖症のボックス、てんかんのタイコ。病気持ちでおたくの彼等は、互いの能力を活かしたITビジネスを始めるが…

先日見たTVで、コスプレ喫茶の存在を知る。昔はオーディオやラジオのパーツ等の電気街だったけど、最近はその手の街に変貌しているよう。
本書に登場する主人公も、アキバ通いのおたく達。
主人公達は、それぞれグラフィックに優れていたりプログラムに優れていたりと、ユニークな設定。どこかに障害はあるものの、それをカバーする才能に恵まれている。
おたくらしさはわずかで、何かをやろうという気持ちはあるが、それをどこに向けていいのか戸惑っている青年、といったとこ。
まあ、普通にどこにでもいる若者ね。

そんな彼等が、素晴しいソフトを作ろうと団結。それをめぐる企業,バーチャルな仲間,研究者などとの駆け引きやらが展開する。
リアル秋葉原の姿をちりばめながら描写される様は、どこか劇画タッチ。

もっとへんてこりんな小説や登場人物を想像していたが、いたって普通の小説。
ただ、大人が読むには展開や描写がいささか甘めかな。
登場人物には、本当のおたく青年の気持ちを惹くだけの魅力もないのでは?

前に読んだ本でも感じたが、著者の想像する登場人物は、現実世界のそれと微妙にずれている。そこが劇画風に感じる理由か。
悪くいえば、人物が生きていないように感じる。

でもでも、ラストのくだりは、なかなか感動的!

アキハバラ@DEEP/石田衣良の表紙
 

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