だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 最近は新旧歴史時代小説やエンターテイメント、ライトノベルにも手を伸ばして節操のない状態に。趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

ガール/奥田英朗

◆読んだ本◆
・書 名:ガール
・著 者:奥田英朗
・出版社:講談社
・定 価:1,400円
・発行日:2006/1/20

◆評価◆
・働くOLの戦い度:★★★
・悩むOLの鬱屈度:★★★
・恋するOLの駆け引き度:★★★

◆感想◆
30代のOL達を主人公に、仕事や恋や家庭に、悩んだり励んだり吹っ切れたりする姿を描いた短編集。

男主導の社会で生きていくOL。彼女達の女目線で描写される世界は、男の自分が読むと新鮮で愉快。 ハンサムな新入社員にあの手この手で迫るOLや、中間管理職に抜擢された女性の話なんか、「やっぱりね」「よく分かるその気持ち!」と言いたいくらい。
結末もすっきりしていて、爽やか。

主人公と同世代のOL達が共感するかどうかは別にしても、著者はだいぶん苦労して書いてんじゃないのかと想像。
著者の本を読んでると、精神分析とか心理学の心得があるんではないかと思える程、登場人物の内面描写が細やか。
人間関係で苦労しているのかな?

実際の社会生活は本書と違って、もっとドロドロベチョベチョの部分があるだろうけど、それを言ったらつまんないしね。

ガール/奥田英朗の表紙
 

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讃歌/篠田節子

◆読んだ本◆
・書 名:讃歌
・著 者:篠田節子
・出版社:朝日新聞社
・定 価:1,700円
・発行日:2006/1/30

◆評価◆
・天才的女性ヴィオリストの姿度:★★★
・作り上げられる虚像と実像度:★★★★
・本当の感動とは度:★★★

◆感想◆
社会問題や報道番組の制作を手掛ける東経映像。ディレクターの小野は、知人の勧めで聴いた無名のヴィオリスト柳原園子の演奏に感動する。彼女の栄光と挫折をテーマに、TV番組を制作しようとするが…

若くして天才的バイオリニストと称された少女園子。
その後の音楽留学で挫折した経緯。
現在50才近い年令なのに、世俗の垢やよどみを感じさせない佇まい。
そして何より、聴く人の心を揺さぶる演奏。

前半は、園子の演奏を聴いて感動した小野が、テレビのドキュメンタリーとして番組を制作する過程が描写される。
いわゆる感動的で癒しをテーマにした小説かと思いきや、後半になって思わぬ展開に!

著者らしいちょとひねった視線がいい。
「癒し」という言葉が世の中に満ちあふれているけど、それってほんと? みたいな視点が、本書のテーマ。
欲をいえば、前半もっと感動的に作り上げてくれれば、後半との落差が大きくなって面白かったかも。

しかし、本当の感動ってなんなのか。
本書に登場する園子の演奏に心から感動し涙する人もいれば、その演奏に疑問を投げかける音楽の専門科もいたりして。

ピカソの絵はさっぱり理解できないけど、息子が書いた「パパの顔」に感動するような、広い海を見て感動するけど、道路の水たまりは避けて通るだけのような。
結局自分の志向がどこに向いているかという問題では。
最大多数なのか個なのか。

付和雷同的日本社会に一石を投じる書! になるか?

讃歌/篠田節子の表紙
 

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銀齢の果て/筒井康隆

◆読んだ本◆
・書 名:銀齢の果て
・著 者:筒井康隆
・出版社:新潮社
・定 価:1,500円
・発行日:2006/1/20

◆評価◆
・老人達のバトル・ロイヤル度:★★★
・国家的差別の構図と逆差別度:★★★
・随所に見られる「毒」度:★★★★

◆感想◆
宮脇町5丁目に住む宇谷九一郎77歳は、同じ町内に住む囲碁友達の正宗忠蔵78才に向かい、ゆっくりと懐からワルサーを取り出す。「覚悟、できてるかい」

爆発的に増大した老人人口を調節するため、国家主導で実施される老人相互処刑制度。町内に住む70才以上の老人達が、互いに殺しあうというトンデモ設定のブラック小説。

老人同士を殺させるという反社会的反人間的設定に加え、殺害シーンや断末魔の人間の醜い情動などが、著者らしいブラック&シニカルな文章で描かれる。
カットバック的な描写や、「老人」を代表とする差別に関する記述など、印象的なところも多いが、なんといっても文章から溢れるパワーがすごい。
70才を過ぎ、これだけのとんでもない小説を書く著者に驚く。

しかしこの感想こそ、著者がもっとも嫌うものかも。
老人だからといってバカにしちゃいけないし、過保護にしてもいけない。
また手厚く看護されることを当たり前のように感じてはいけないと、70才をこえた著者は思っているのだろう。

年寄りだと思ってバカにスンナよ! みたいな。

銀齢の果て/筒井康隆の表紙
 

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エンド・ゲーム/恩田陸

◆読んだ本◆
・書 名:エンド・ゲーム
・著 者:恩田陸
・出版社:集英社
・定 価:1,500円
・発行日:2006/1/10

◆評価◆
・不思議な力を持つ人たちの物語度:★★★★
・「光の帝国」の続編度:★★★
・筒井康隆&キング&宮部みゆき度:★★★★

◆感想◆
拝島暎子が会社の慰安旅行先の温泉で病院に運ばれる。命には別状ないものの、眠ったままで意識が戻らない。娘の時子は病院に駆け付けるが…

本書を読む前に、あらかた内容を忘れている「光の帝国」を再読。
去年「蒲公英草紙」を読む前に再度しているのに、1年もたたぬ内に内容を忘れてる自分。
悲しいなあ。自分も「しまう」ことができたらなあ。
しかし「光の帝国」は素晴らしい小説。またまた感動してしまった。

常野一族。彼等は人より長く生きられたり、遠くのものが見えたり、未来のことがわかったりする不思議な力を持っている。
本書は「光の帝国」で登場した「裏返す」力を持つ拝島母娘が主人公。

眠ったまま意識の戻らない暎子を、裏返されたと思う時子。彼女を助け出そうとするうち「洗濯屋」と名乗る男に会う。
封印された過去。
拝島一家と「あれ」との関係。
「裏返す、洗濯、包む、世界とは?

「洗濯屋」がキーマンとなり、謎がしだいに明らかに!

いままでの常野シリーズとは趣の違う展開。
なんか筒井康隆の七瀬シリースのような構成のようで(筒井康隆ほど飛躍はしていないが)、キング風モダンホラーの味付けもあり(ファイアスターターみたいな印象や「あれ」なんて言い方も)、宮部みゆきが描いた超能力者の物語り(超能力者=異端者の、悲哀と孤独)のような印象。
読みはじめた時に期待したのとは、ちょっと違った方向に物語は展開。
それなりに面白かったが、「光の帝国」を読んだ後では辛いものが。
だって期待しちゃうもんなあ。

一番印象的だったのは、冒頭に書かれている「バスの運転手」の怪談。
これは怖い!

エンド・ゲーム/恩田陸の表紙
 

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風味絶佳/山田詠美

◆読んだ本◆
・書 名:風味絶佳
・著 者:山田詠美
・出版社:文芸春秋
・定 価:1,229円
・発行日:2005/5/15
     
◆評価◆
・体感的恋愛小説度:★★
・メルヘンチック&ペシミスチック度:★★
・へんてこな/崩れている/いびつな関係度:★★★★

◆感想◆
不思議な三角関係、親子ほども年令の離れた男女の関係、幼馴染みの男女関係など、不思議で理解不能ながら感覚的には納得してしまいそうな男女の結びつきを描いた短編集。

山田詠美は、今でいうと岩井志麻子みたいな印象があり、ちょっと敬遠していた作家。
「本の雑誌」で2005年度第1位ということから、読んででみた。
これがなんというか実に体感的な、じんわりと効く、奥の深い小説。

与えられ過ぎると与えたくなる。与えられないと、貪欲になる。
すべてを欲するけど、満たされると唾棄する。
相反する欲求は、どこかで破綻するか、際どく均衡を保つ。

各短編とも味わい深いが、一番気に入ったのは「アトリエ」
この破綻のしかたは、鬼気として素晴しく恐ろしい。
甘いと思っていた飴玉の中に、尖った針が入っていたような。
それでもなめ続けてしまうような。
ちょっとゾクゾクした。

風味絶佳/山田詠美の表紙
 

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凍/沢木耕太郎

◆読んだ本◆
・書 名:
・著 者:沢木耕太郎
・出版社:新潮社
・定 価:1,600円
・発行日:2005/9/30

◆評価◆
・山岳ノンフィクション度:★★★★
・ギャチュンカン北壁の死闘度:★★★★★
・読んでる自分が凍えそう度:★★★★★

◆感想◆
冒険小説ならば「スリルとサスペンスに富んだ」とか「手に汗握る」とか「生死をかけた極限の壁」とか感想をいえる。が、本書はノンフィクション。軽々しい言葉で感想を書くのをためらってしまうほど壮絶な記録。

登山方法には、大量の人員と物資を使ってベースキャンプを設け、アタッカーと呼ばれる数人の隊員が登頂を目指す極地法と、少人数または単独で短期間に登頂を目指すアルパイン・スタイルがある。
山野井は、アルパイン・スタイルの登山家として世界的に認められている。

8000mにわずかに足りないヒマラヤの高峰ギャチュンカン。独自の登山に対する考えを持つ山野井は、その素晴らしい壁に美しいラインを描いて登りたいと思い、それを妻であり優秀なクライマーでもある妙子と挑む。

まさに極限の登攀の一部始終が描かれる本書は、読んでいる方が震えるようなシーンの連続。
著者らしい静謐な筆致が、その凄さを際立たせている。

無酸素、ロープの安全確保なしでの登攀。
手がかりのないオーバーハング。
激しい雪と、襲い掛かる雪崩。
7000m以上の岩肌でのビバーク。

それこそ死を目の前にした登攀。
こうゆう本を読むと、虚構である小説がいかにも作り物に見えてくる。

あまり多くを語らないであろう山野井氏から、ギャチュンカン北壁登攀の体験をインタビューして文章にした著者の手腕も素晴らしい。

凍/沢木耕太郎の表紙
 

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