だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 最近は新旧歴史時代小説やエンターテイメント、ライトノベルにも手を伸ばして節操のない状態に。趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

弥勒の月/あさのあつこ

◆読んだ本◆
・書 名:弥勒の月
・著 者:あさのあつこ
・出版社:光文社
・定 価:1,600円
・発行日:2006/2/25

◆評価◆
・せつなくも悲しい時代小説度:★★
・心の闇を抱える男たち度:★★★
・おりん 美しすぎるぜ度:★★★★

◆感想◆
小間物問屋「遠野屋」の若女将おりんが、溺死体で発見させる。おりんが自殺したことに納得のいかない遠野屋の主人は、同心木暮信次郎に調査を依頼するが…

どこが無気味でペシミスティックな同心。
それに呼応するような、本心を見せない遠野屋の主人。
おりんの死を調査する展開にあわせて、二人の性格が描写されるが、ここが本書の読みどころ。

少年少女たちの心を描き出してきた著者が、若い二人の登場人物の心をどう描くか!

これがなかなかシリアスタッチでいい。
切れ者で相手の気持ちなど慮ろうともしない同心。彼の言い掛かりのような質問にも、感情を表わさず冷静に答える遠野屋の主人。
二人の駆け引きもうまいし、間に入る初老の岡っ引きも、良い味をだしている。

ミステリー小説にもなっているし、悲しき恋愛小説のようでもあり。
それにしてもここに登場する女性たちが美しすぎる。
特におりんは、弟の嫁に迎えたいくらい。(弟いないけど)
弥勒のような女性って、ひとつの理想形。だからよけいにせつなく悲しい。

ただ近しい女性が弥勒に見える時もあるけど、なぜかだんだん鬼のように感じる機会が増えてくるようなこないような。

弥勒の月/あさのあつこの表紙
 

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まだ見ぬ冬の悲しみも/山本弘

◆読んだ本◆
・書 名:まだ見ぬ冬の悲しみも
・著 者:山本弘
・出版社:早川書房
・定 価:1,700円
・発行日:2006/1/31

◆評価◆
・ハードSF度:★★★
・現実と虚構の間度:★★★★
・マニアックなSF度:★★★★

◆感想◆
時間、宇宙、言語などをテーマにした、マニアックなSF短編集。

全体を通して感じられるテーマは、虚構でもなければ現実でもない世界。
科学的根拠により虚構の空間を構築するというSF的手法もあるが、ただ思念する/妄想することでも仮想空間を構築できるという。
自分で書いときながら、何を言いたいのか良く分からないが、要は「想像力だけでもSFは書ける ロジックはいらない!」って感じか。
(それってファンタジー?)

「メデューサの呪文」は、言葉が持つ力をウルトラスーパー倍させる詩的文章力をもつ異星人と、人間との遭遇を描写した佳作。
詩を読んだだけで発狂するという、まさに呪文のような詩を紡ぐ異星人。
それだけものすごい詩をつくれるんなら、自分がモテモテになる詩というのも作ってもらいたいと、どこかのオヤジみたいな妄想も。

そんな感想を書きながらも、とてもハードにSFしているところは、著者らしい、なんて反対のことを言ったりしてみる。

まだ見ぬ冬の悲しみも/山本弘の表紙
 

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包帯クラブ/天童荒太

◆読んだ本◆
・書 名:包帯クラブ
・著 者:天童荒太
・出版社:ちくまプリマー新書
・定 価:760円
・発行日:2006/2/10

◆評価◆
・心の痛みを修復する方法度:★★
・社会と少年少女たちの関係度:
・不安・いらだち・将来度:

◆感想◆
どこかしら不安でいらだって将来に希望を持てないでいる高校生の笑美子。彼女は、傷を受けた場所に包帯を巻き、傷を癒そうとする…

いろんな理由で心に傷をうけた登場人物たち。その心の傷を癒すために、傷を受けた場所にある物に、包帯を巻くという儀式めいた代替行為を行う。
その行為は、なぜか彼女達の心を癒すのだが。

それがどうした?って感じ。

「物に包帯を巻く」という行為は、示唆的・暗示的でアイデアとしては悪くないし、その行動が社会や仲間との軋轢を生んだり、連帯感を強くしたりするという展開に文句はないけど、「それで?」「これで終りなの?」といいたくなる内容。
「起承」だけで完結、みたいな。

少年少女たちがガラスのように傷付きやすいのは分かったけど、これでは大人の共感は得られないだろうし、傷付きやすい少年少女たちだって包帯を巻こうと思わないんじゃない?
だいたい包帯を巻いている自分を見てもらうことに意味があるので、物に巻いた包帯を見て、その意味が分かるのは自分だけじゃん。

包帯クラブ/天童荒太の表紙
 

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ディアスポラ/グレッグ・イーガン

◆読んだ本◆
・書 名:ディアスポラ
・著 者:グレッグ・イーガン
・出版社:早川文庫
・定 価:900円
・発行日:2005/9/30

◆評価◆
・スーパーウルトラハードSF度:★★★★
・超絶的イメージ度:★★★★
・価値観・人間観・人生観・世界観の崩壊度:★★★
・次元を多くすれば、なんでも解決する度:★★★★★
・SFファンはインターネットで「コズチ理論」を検索する度:★★★★★

◆感想◆
2975年。仮想現実世界のポリスで生み出された人工生命ヤチマは、ガンマ線バーストによる被害から肉体人を救おうとする…

仮想現実世界、コズチ理論、地球外生命体と、幾つものSFネタを巧みにあやつり一つの物語にする構成は、「万物理論」では味わえなかった快感。
特に難解な数学・物理学理論で事象を表現し描写するシーンは特筆もの。なにがなんだか良く分からん屁理屈が、ハードSFファンにはたまらん!!

「十次元のファイバー束として宇宙を記述するコズチ理論」

この理解不能な文字列。素晴らしい。

新たなSF的局面を表現するには、こんなに難解な理論を駆使しないとならないのか、という感慨を覚える一方、著者の科学的知識が偏向した物語を書かせているのだろうとも思う。
(同じテーマの物語を、もっと平易に、そしてドラマチックに描き出すことだってできたはずで。主人公の志向が数学に帰着するあたりに、著者の人生感と本書を書くにあたってのスタンスを感じる)

そんなハードSFとしての技工面はずば抜けているが、物語の側面をなす「移入された人格と肉体人の対峙」、「トランスミューターという存在の意義」、「孤児ヤチマが追い求めるものとは?」などのサブテーマは、少々弱腰。
もっとより、菜っ葉な哲学/倫理は読みたくないし、本書の弱腰な体裁で十分だが、文系SFファンには物足りないかも。

物語としては科学にバイアスがかかりすぎで、一般向けにはならない。ま、そこが「万物理論」を受け入れられなかったけど本書は楽しめた理由でもある。

ハードSFとしての醍醐味は、十分味わえる小説。

ディアスポラ/グレッグ・イーガンの表紙
 

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