だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 最近は新旧歴史時代小説やエンターテイメント、ライトノベルにも手を伸ばして節操のない状態に。趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

使命と魂のリミット/東野圭吾

◆読んだ本◆
・書 名:使命と魂のリミット
・著 者:東野圭吾
・出版社:新潮社
・定 価:1,600円
・発行日:2006/12/5

◆評価◆
・病院を舞台にしたスリル&サスペンス小説度:★★★★
・緊迫の手術シーン度:★★★★★
・心からの気持ちが人の心を動かす度:★★★★

◆感想◆
亡くした父と同じ病気の人を助けたい。そんな思いで医学部を卒業した夕紀は帝都大学医学部で研修を行っていた。しかし彼女には、医師になったもう一つの動機があった…

大学病院で起きるスリルとサスペンス。
夕紀の亡くなった父親、研修医の彼女を指導する西園教授、病院でおきる事件と担当する刑事。
因縁めいた人間関係と緊迫の展開が、そりゃーもう芸術的な完成度で描かれる。

物語は単純だし、登場人物の暗い裏側を抉るような話でもなく、いってみれば人間の信するところ=使命を描いたエンターテイメントなドラマなんだけど、著者の職人ワザの極みを感じさせる。

最後の方はハラハラドキドキするやら、涙が止まらないやらでもう大変。
それでいてあざとさを感じさせないんだから、まいるっきゃない。

ただあまりにも著者の思い通りの反応で、くやしい自分が。
どこをどう描写すると、読者はどうゆう反応をするかが分かっているようで、そんな簡単に感動するもんかと思いながらも著者の狙い通りに感動してしまう単純さに、自分の平均的でお気楽な人生を見た気がする。

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彼女がその名を知らない鳥たち/沼田まほかる

◆読んだ本◆
・書 名:彼女がその名を知らない鳥たち
・著 者:沼田まほかる
・出版社:幻冬舎
・定 価:1,600円
・発行日:2006/10/10

◆評価◆
・愛と狂気のミステリー度:★★★
・どよーんとした身体的言語感覚度:★★★
・驚愕のラスト度:★★

◆感想◆
黒崎と別れてからというもの、周囲の人となるべくかかわりを持たないように暮らしている十和子。そんな彼女に近付いてきた佐野陣治に対し、嫌悪感をあらわにする十和子だが…

別れた黒崎への思い、一種に暮らすようになった陣治へのいらだち。十和子の心情がうすら寒い身体的言語で語られる。
著者には自分を深く見つめすぎて、深い泥沼に入り込んでしまった経験があるんじゃないかと思わせるような言語感覚。
ちょっとヤバいかも。

それにしても十和子が陣治に対して抱く嫌悪感が、なんともやりきれないほど共感を生みそう。

水虫でめくれた足の皮をちびちび剥く陣治、便器汚さずに小便のできない陣治、痰のからんだ咳きをする陣治、ものを噛むときピチャピチャという音をさせる陣治…

こりゃもう女性に嫌われてもしょうがないという、だらしなさと気持ち悪さ。
一方十和子の方も、家事をしなければ化粧もしない、一日中レンタルビデオを見ているような怠惰で引きこもりの女性。
こんな二人がなぜ一緒に暮らしているのか?!

前半の十和子の陣治にたいする気持ちが綿々と綴られた部分にはうんざりしたが、後半から物語が動き出す。
ラストにはやや驚き?の展開が。

デパートの男性店員水島との関係が強引ではあるし、そんなに陣治を汚く描写する必要があるのかと思うが、そこが著者の持ち味という小説。

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夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

◆読んだ本◆
・書 名:夜は短し歩けよ乙女
・著 者:森見登美彦
・出版社:角川書店
・定 価:1,500円
・発行日:2006/11/30

◆評価◆
・乙女チック恋愛小説「ボーッ」度:★★★★
・キュートなヒロインと奥手なヒーロー「なむなむ」度:★★★
・学園生活の大冒険「韋駄天コタツと偏屈王事件」度:★★★

◆感想◆
京都を舞台にした「黒髪の乙女」と彼女に恋いこがれる「先輩」の恋物語。

繁華街でのちょっと不思議な人々との出合い、李白翁と「黒髪の乙女」の偽電気ブラン飲み比べ、古本を巡っての大勝負、学園生活に愛と冒険の絶えない日はないという連作短編集。

物語はとてもファンタジックでキュート。
文体も古風な趣と軽妙な洒落にとんでいる。
普通の出来事も、とらえ方によってはエキサイティングでエキゾチックな風景になるんだなあと、著者の感性のなせる技かと感心。

しかしなんといっても一番の魅力は、ヒロイン「黒髪の乙女」の元気で好奇心溢れる姿。
無垢で危なっかしい行動が、守ってやりたくなる男心をくすぐりまくる。
ステキだ!

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中庭の出来事/恩田陸

◆読んだ本◆
・書 名:中庭の出来事
・著 者:恩田陸
・出版社:新潮社
・定 価:1,700円
・発行日:2006/11/30

◆評価◆
・劇中劇中劇中劇度:★★★
・交錯する虚構と真実/入れ替る演者と観客度:★★
・深まる謎の行方は!?度:★★★★

◆感想◆
人気脚本家が毒を飲み死亡する。その場にいたのは彼の芝居に出演する女優たち。彼は自殺したのか、それとも殺されたのか…

3つのシーンが交互に語られ展開する構成。芝居のシーンのようでもあり現実のようでもあるドラマチックなストーリーが、入れ子構造になったり劇中劇になっていたりと、手の込んだ作り。

「いったいどれが現実でどれが虚構劇なんだ!」「いったいどうやって物語を着地させるんだ?」と思ったが最期、そこにハマると小説世界から離れられなくなる。
著者の思うつぼ。

ただあんまり穿った読み方をすると、読後に本を壁にぶつけたくなる人もいるかと。
女学生の事故死とその時浮かべていた3つの顔、料理旅館の養女という生い立ちの大女優、そのへんの挿話と本編への絡みを楽しみながら読むのがいいかも。

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ラギッド・ガール/飛浩隆

◆読んだ本◆
・書 名:ラギッド・ガール
・著 者:飛浩隆
・出版社:早川書房
・定 価:1,600円
・発行日:2006/10/31

◆評価◆
・バーチャルSF小説度:★★★★
・精緻で綿密な文章と詩的な表現度:★★★★
・秀逸な仮想空間と深遠な現実世界度:★★★★★

◆感想◆
数値海岸開設から「グラン・ヴァカンス」にいたる多数の謎を明らかにする「廃園の天使」シリーズ第2巻。

「グラン・ヴァカンス」を読んでいないんだけど、それでも十分楽しめるというか「グラン・ヴァカンス」を読まねば、と思わせる秀逸なSF連作短編集。

その物語世界が素晴らしい。未来世界の構造や成り立ちや背景などを、著者がきっちり構築しているからこそ描ける世界。
さらに登場人物の心理描写もうまい。

表題作「ラギッド・ガール」は、著者の嗜好というか狙いについて全く知らないで読んだためか、ラストは非常にショッキング。
バーチャルな世界と物理的な世界の狭間には、どうしても肉体的な視点、身体性というのが欠かせないようで、そのへんをうまく掴んだ傑作。

神林的な確固としたSF世界を持っているようで、かといってガチガチのハードSFに仕立て上げる風でもなく、叙情的なところが奥深さを演出している。

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独白するユニバーサル横メルカトル/平山夢明

◆読んだ本◆
・書 名:独白するユニバーサル横メルカトル
・著 者:平山夢明
・出版社:光文社
・定 価:1,600円
・発行日:2006/8/25

◆評価◆
・恐怖/ホラー/グロテスク小説度:★★
・破綻的会話と構成の美度:
・狂気と死を演出する儀式度:

◆感想◆
とてつもなくグロテスクで退廃的で死と狂気の溢れかえった短編集。

言わずと知れた「2006年このミス年第1位」の本だけど、どうにも生理的に合わない。
スカトロ、カニバリズム、拷問などなど、およそ人が忌み嫌うようなシーンをテーマにして描写しているけど、もう少しテーマや描写を昇華させて欲しいと。

怪我や手術などの痛そうでリアルなシーンが最近苦手なんである。
むかしは映画の残酷なシーンなんかもへっちゃらだったのに、たまにTVでやってる「衝撃の事故映像」みたいなのは、もう直視できない。すぐチャンネルを替えてしまう。

そんな感じで読み飛ばしてしまったが、それでも印象に残ったのは「Ωの正餐」という食人がテーマの短編。
もっと耽美的に描かれていれば、と思うものの、それでは小説としては違う方向にいってしまうんだろうな。

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