だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 最近は新旧歴史時代小説やエンターテイメント、ライトノベルにも手を伸ばして節操のない状態に。趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

還るべき場所/笹本稜平

◆読んだ本◆
・書 名:還るべき場所
・著 者:笹本稜平
・出版社:文芸春秋
・定 価:1,850円
・発行日:2008/6/15

◆評価◆
・山岳冒険小説度:★★★★
・過酷な山とそこに挑む人間の姿度:★★★★★
・山に対する真摯な想い度:★★★★★
・生きるという事とは度:★★★★★

◆感想◆
自己流で山登りを覚えた高校生の翔平は、同じように単独で登山をしていた亮太、祐一と意気投合し、一緒に行動するようになる。亮太の従妹である聖美を仲間にいれた4人は、日本の名だたる山を制覇。大学生となった彼らは、冬のマッキンリーに挑むが・・・

のっけから翔平と聖美のK2登坂シーンで読者の心をつかみ、さらに雪崩による落下、宙吊りになった二人。そしてロープの切断による聖美墜落と、山岳小説のキモを押さえた出だしに大興奮!!
久々に心が熱くなる小説だ。

翔平を中心とした成長青春物語に並行して展開する、剛胆でワンマンな神津の物語もいいぞ。
医療機器会社を一代で起こし、自らが自社のペースメーカーを使用している神津。「ヒマラヤ公募登山へ参加し、自社製品で生産しているペースメーカーの優秀さを実証したい」という理由でヒマラヤへの登山を目指すが・・・

自社製品のアピールというのが登高の目的だった神津が、しだいに生きる目的や夢を山に見いだしていく姿。

さらに翔平や神津を取り巻く登場人物も男気あふれる人たちばかり。
街中で聞いたら陳腐になってしまう台詞も、寒風と雷と雪の吹きすさぶ山の中だと、とてつもなく真実みのあるものになるから不思議だ!


小説の山は、ブロードピーク登攀。
聖美を失って失意の底に沈んでいた翔平。人生の夢を山に見いだそうとする神津。
さらに様々なトラウマと死者に対する遺恨や愛を引きずる登場人物達が、K2の隣に聳えるブロードピークに挑む。

この登攀シーンがスゴい。
希薄な酸素。夏なのに凍えるような寒さと嵐。その中で相次ぐトラブルが起きる。
まさに極限状態に置かれた人間と、そこに浮かび上がるドラマ。

あーやっぱり山岳小説っていいなあ!
不可能と思われる困難に、何のてらいもなく立ち向かう姿。
これぞ冒険小説(山岳小説)の醍醐味!

読後の清涼感もいい。
みんながきちんと「還る場所」に帰ってるし。


ブロードピーク
ブロード・ピーク

「還るべき場所」のような小説を読むと、前読んだ「」を思い出す。
これも凄まじい内容だった。
それがノンフィクションだから尚驚く。
とても人間業とは思えない登攀シーンと、人間を寄せ付けない過酷な山。
そんじょそこらの小説が束になってかかっても、太刀打ちできないだけの迫力がある。

こうゆう本を読むと、登山家ってやっぱりどこか突き抜けてるというか抜けてるというか。
山で得られるものには、麻薬的な魅力があるとしか思えない。


還るべき場所/笹本稜平の表紙
 

◆他のサイトの感想◆
雪山大好きっ娘。2.0
森乃屋龍之介の日常

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不連続の世界/恩田陸

◆読んだ本◆
・書 名:不連続の世界
・著 者:恩田陸
・出版社:幻冬舍
・定 価:1,600円
・発行日:2008/7/30

◆評価◆
・奇妙で不思議な出来事度:★★★
・恩田風トラベルミステリー度:★★
・結末がちょっと怖くて度:★★★

◆感想◆
聴いていると死にたくなる歌。
映画の撮影現場を目撃すると必ず死人が出る。
目の前の砂丘が無くなってしまう謎。
そんな奇妙で不思議な出来事を、音楽プロデューサで、どこかとらえどころのない性格の多聞が解決?するという、恩田陸の作風豊かなちょっと怖いミステリー集。

多聞のポワーンとして飄々とした雰囲気が、風変わりなミステリーにマッチしている。
何でそんな事が起きるのか、頭でつらつら考えたり、仲間と話し込んだり、ふらふらと現場に足を運んだりする多聞。
奇妙で不思議な出来事にはそれなりの結末があるんだが、中にはちょっとゾゾッとする結末も。

ラストの短編「夜明けのガスパール」は、奇妙な出来事を見てきた多聞が、見られる側に。
ちょっと「狂気」っぽい雰囲気もあって、本書の中では一番良かったか。


著者のホラー小説の怖さは、その雰囲気と挿話にある。
本書の中でも「赤い犬の映画」「窓をコツコツと叩く音」といった話題が出てくるが、本編の怖さを増幅してる。
こういった情景描写がとてつもなく怖くて、夜中に読んでると震える事も。

以前読んだ「球形の季節」では、怖くてビックリして飛び上がった事が!
小説読んで飛び上がるほどビックリ怖くなったのははじめて。
映画「キャリー」のラストぐらいビックリ怖かった。


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不連続の世界/恩田陸の表紙
 

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おそろし/宮部みゆき

◆読んだ本◆
・書 名:おそろし
・著 者:宮部みゆき
・出版社:角川書店
・定 価:1,700円
・発行日:2008/7/31

◆評価◆
・江戸時代 不思議恐ろし物語り度:★★★★★
・人を罪に追いやる心度:★★★★
・屋敷に取り憑くモノとの戦い度:★★★

◆感想◆
おちかは叔父の三島屋伊兵衛のもとに身を寄せ、黙々と仕事をしていた。実家で起きた事件のため、心を閉ざしていたおちかには、そうやって身体を動かしていれば、あらぬ事を考えずにすむから・・・

宮部版の百物語。といっても4話しかないけど。
訳ありで心を閉ざしてしまったおちかに、三島屋伊兵衛が思いつく荒療治。それは恐ろしい出来事で心に闇を抱えてしまった人の、不思議で恐ろしい話しを聴くというもの。
このちょっと工夫された設定が、物語にただの怪談連作集ではない展開をもたらしている。

登場人物は著者らしい心根の優しい人たちばかり。
人の罪を自分の罪としてしまうような優しい気持ちが、自分を苦しめてしまうというような。
でもそんな心の持ち主も、罪を犯してしまう事が。

そんな浮かばれない心を貪るような存在が! というのが後半の展開。
ちょっと「シャイニング」が入ってるぞ。
それに冒険ファンタジーも。


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オーバールックホテル



不可思議で恐ろしい物語にきちんとした結末を用意した格好だが、逆に怖さは無くなってしまったなぁ。

先日読んだ京極夏彦「幽談」と読み比べると、同じ怪談話でありながら方向が逆で面白い。
これって宮部みゆきと京極夏彦が組んでやってるのか?


おそろし/宮部みゆきの表紙
 

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マルグリートの輪舞曲/茅田砂胡

◆読んだ本◆
・書 名:マルグリートの輪舞曲
・著 者:茅田砂胡
・出版社:中央公論新社
・定 価:900円
・発行日:2008/7/25

◆評価◆
・少女小説度:★★★
・勧善懲悪度:★★★★
・水戸黄門度:★★★★

◆感想◆
クラッシュ・ブレイズシリーズの11巻。
短編3編から構成される連作集だ。

茅田砂胡というとデルフィニア戦記の面白さを思い出し、自動的に新刊を購入してしまう。

本作に登場するのは、今まで通りのオールキャスト。
家族を思う気持ち、愛、友情といった、書くのは大丈夫だけど言葉にするのは恥ずかしいテーマで書かれ、さらにリィのムンムンお色気女性への変身やケリーをはじめとするメンバーのアクションシーンと、盛りだくさんだ。

女性たちのきらびやかな衣装や華やかな世界の描写は、「お姫様」というキーワードでくくれるような少女趣味ぶり(少女小説だから当たり前なんだよね)。
展開も予想通りでありながら、スカッと爽快なカタルシスを感じるは、著者の手腕だろう。

これって水戸黄門を見て感じる面白さと同じか?

愛や人情あり、アクションあり。
ぐちゃぐちゃな様相を呈しても、最後は実力と権威の象徴である「印籠」の前に悪者はひれ伏すという勧善懲悪ぶり。

少女小説は水戸黄門なんだな。


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本編とは全然関係ないんだけど、文中に「傾城」という言葉が出てくる。
なじみのない言葉だが、含蓄あるなぁ。
少女小説にはやや早熟気味?


マルグリートの輪舞曲/茅田砂胡の表紙
 

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誘拐/五十嵐貴久

◆読んだ本◆
・書 名:誘拐
・著 者:五十嵐貴久
・出版社:双葉社
・定 価:1,500円
・発行日:2008/7/25

◆評価◆
・スリルとサスペンスの誘拐劇度:★★★★★
・最近の誘拐操作情報度:★★★★
・社会派(格差社会への低減)度:★★★★
・どんでん返しの伏線 ちゃんと貼ってるし度:★★★★★

◆感想◆
大角観光の総務部に勤める秋月孝介は、1ヶ月前にリストラした葛原が家族と無理心中したとの知らせを受ける。いたたまれなくなった秋月は会社を飛び出すが、どこに行くという宛があるわけではなかった・・・

これは面白いぞ!

会社を乗っ取られ、あまつさえリストラをする側にされた秋月。仲間の首を切りながら、自分の精神を削るような仕事。それに追い討ちをかけるような葛原の死。
さらに秋月の仕事に対する不満・不信を募らせた娘の自殺。

リストラする側もされる側も辛いという、やりきれない世の中だ。

そんなプロローグを経て、秋月の周到で綿密な誘拐計画が実行される。
これがスリルとサスペンスの展開。
最近の誘拐操作に関する情報(電話の逆探知はデジタル化のためアッという間に分かっちゃうとか)も織り込んで、従来の誘拐モノに引けを取らない完成度だ。

さらに「日韓友好条約締結」という歴史的イベントと誘拐事件が重なり、警察力が分散するといった背景や、誘拐される少女が●▲※■だったり!

中盤までは物語の展開が面白くって、グイグイ読ませる。
しかし秋月の、誘拐を企てる動機がいまいち弱いんじゃないのか? これじゃミステリー小説の仕掛けとしては面白いが、読み物としてはいまいちかな、とか思っていたら大間違い!!
あっと驚く納得のどんでん返しだ!

誘拐モノミステリーとして面白く読めるし、社会派ミステリーとしてもイケてる。
従来の著者の小説は、面白いもののオリジナリティに欠ける部分があったが、本書はそれを吹き飛ばす会心の出来。
「リカ」を読んだ時と同じくらい興奮したぞ。

誘拐/五十嵐貴久の表紙
 

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幽談/京極夏彦

◆読んだ本◆
・書 名:幽談
・著 者:京極夏彦
・出版社:メディアファクトリー
・定 価:1,380円
・発行日:2008/7/6

◆評価◆
・現代版怪談度:★★★★
・怖いものとは?度:★★★★★
・確かな事と不確かな事/条理と不条理/論理と感情度:★★★★

◆感想◆
現代版怪談短編集。
とある旅館の庭で手首を拾う話し、ベッドの下にいる人の話し、なにかとてつもなく嫌なものから逃げる少年の話し・・・

著者の怪談話というと、ちょっと昔の時代背景で妖怪をモチーフにした小説を思い浮かべるが、本書は現代版の「怖い話し」集。
手首を拾ったりベッドの下に人がいたりと、その出来事だけ見ると陳腐だが、そこは著者ならではの味付けがある。

はじめは筋道のはっきりした展開なのに、途中からとても不条理で感覚的な世界に入り込み、恐怖というより精神や理論が崩壊するような不安定感をかもしだしている。

「ムムム!」と思わず身を乗り出して読み出したのは、後半の3編。

「十万年」の書き出しは、
「・・・人はみな違っているのだから、世の中がどう見えているのかも人それぞれなのだろう。夕陽が真っ青に見えていたって、ずっとそうならそれを赤と呼んでいるなら。その人にとってはそれが夕陽の色で、それが赤なのだ」

SF好きなら、何が確かで何が不確かなのか、自分と他者との感覚の違い、そういった認識論に共感する人も多いはず。

そんなロジカルな話しをしていきながら、しだいにそれを崩壊させるような展開に。
このへんの精神的不安定感を読者に与える手法が、本書の醍醐味。

本当にあったような話しを導入部に置きながら、しだいに読者の精神を不安定にさせるという「怖さ」。

本書は「恐怖とは何か」というテーマの実験的小説でもあるな。

幽談/京極夏彦の表紙
 

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