だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 最近は新旧歴史時代小説やエンターテイメント、ライトノベルにも手を伸ばして節操のない状態に。趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

ナオミとカナコ/奥田英朗

◆読んだ本◆
・書名:ナオミとカナコ
・著者:奥田英朗
・定価:1,700円
・出版社:幻冬舎
・発行日:2014/11/10

◆おすすめ度◆
・スリルとサスペンス小説度:★★★★★
・何故か2人の女性に感情移入度:★★★★
・空前絶後でも大風呂敷でもないのにこの面白さ度:★★★★★

◆感想◆
百貨店の外商部で働く直美。友人の加奈子が風邪をひいたというので直接家を訪ねるが…

直美と加奈子の2人が主役のこの物語、どこにでもありそうな舞台設定で、どこにでもいそうな登場人物たちなのにこの面白さ。
読み始めたら止まらないっ。
2人のドキドキが手に取るように伝わってきて、読んでる方も心臓バクバクになること請け合いのスリルとサスペンス。

大風呂敷を広げたり、度肝を抜く設定を用意したりして読者を惹き付けることなく、これだけ物語にのめり込ませる著者のテクニック。
おまけに、「犯罪者」となる2人の女性を応援したくなるこの気持ち。

中国人の李朱美も男前ないい味出しているし、陽子(加奈子の旦那の妹)が一段とスリスとサスペンスを盛り上げる。
最期の1行まで飽きさせず読ませるこの小説、本年ベスト1級の面白小説だ。

控えめな印象だった加奈子が、後半アグレッシブな性格に変貌?していく様子も見逃せない。
危機を前にすると女性は怖いくらい強くなるのかも。
男性の皆さん、女性には優しくしましょう。

◆関連記事◆
ナオミとカナコ 奥田英朗/季節はずれの読書感想文

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沈黙の町で/奥田英朗

◆読んだ本◆
・書名:沈黙の町で
・著者:奥田英朗
・定価:1,800円
・出版社:朝日新聞出版
・発行日:2013/2/28

◆おすすめ度◆
・社会派ミステリー小説度:★★★★
・子供たちの、そして大人たちの人間ドラマ度:★★★★
・重苦しい内容は悪夢を見させる度:★★★★★

◆感想◆
中学二年生の少年が部室の屋上から転落死する。これは事故なのか自殺なのか。少年がいじめにあっていたことが明るみになるが…

死亡した少年を中心に、友人や家族、学校関係者や警察などの登場人物を配し、リアルないじめの実態に迫ったミステリー小説。
「少年の死」という重たい出来事を核にして、登場人物たちの人間ドラマが描かれる。

事件が起きてからの時間軸に、過去の時間軸を織り交ぜながら真相が明らかになる展開は、ベテランの作家だけに飽きさせずダレない。
平易で癖のない文章で、物語にぐいぐい引き込まれる。

最後には真相が明らかになるというミステリー小説な構成だけれど、そこにはトリックとかどんでん返しとかの仕掛けはなく、ただ重苦しい「少年の死」があるのみ。

日常の横にある「少年の死」。
些細なきっかけで誰もが出会ってしまうかもしれない不幸が、とっても恐ろしい。

この本を読み終わった夜、会社で死亡事故が起きるという悪夢を見る。 夢にまで影響するこの小説。
なんてリアルなんだ。

宮部みゆきの「ソロモンの偽証」も中学生のいじめがテーマだったけど、内容はだいぶ違う。
「ソロモンの偽証」には著者の少年少女たちへの温かな眼差しを感じたが、本書には著者の冷徹な気迫を感じる。
同じようなテーマで小説を書いても、これだけ違う物語に。
真実なんて人間の数だけあるんだなあ。

◆関連記事◆
奥田英朗さん、初の新聞連載小説「沈黙の町で」/asahi.com(朝日新聞社)
奥田英朗「沈黙の町で」(朝日新聞)/「きむたく」日記@AREA SOSEKI
ソロモンの偽証 第I部 事件,第II部 決意,第III部 法廷/宮部みゆき/サイト内

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噂の女/奥田英朗

◆読んだ本◆
・書名:噂の女
・著者:奥田英朗
・定価:1,500円
・出版社:新潮社
・発行日:2012/11/30

◆おすすめ度◆
・奥田式悪女小説度:★★★
・男ってしょうがない生き物度:★★★
・女は怖いねえ度:★★★

◆感想◆
地方の町を舞台にした、シニカルな悪女小説。男ってしょうがない生き物だねえ度と、女は怖いねえ度の高い連作長編小説。

美人じゃないけど肉感的で蠱惑的な女性・糸井美幸が主人公。
彼女の周りにはいつも男と黒い噂がつきまとう。
会ってみると、とたんにその色っぽさに惹かれてしまうという魔性の魅力を持つ彼女。
同性に対しても以外といい感じで、強気でしっかりした態度に女も惹かれてしまう人物。
いったい彼女の本性は?

「女は怖いねえ」と思う一方、へらへらと惑わされてしまう男もだらしないというかバカというか「頭の中はエロいことしかないのかよ」みたいな。
でもこれがそうなんだなあ、エロいことしか考えていないだなあ男は。
きれいなお姉ちゃんにちょっと「ニコッ」とされただけで、「ん、おれに気があるのか」と思っちゃう生き物なんだなあ。

そんな男たちを惑わせながら、自分の思うように生きようとする主人公に、共感する女性もいるかも?

コネや噂がはびこる刺激の少ない地方都市で、おのが欲望第一の人々が巻き起こす(大騒動じゃなくて)中騒動。

井川遥か井上和香。
主人公の糸井美幸はそんな感じです、はい。
近くでにっこりされたら、しっぽ振ってくっついていっちゃいます、はい。

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我が家の問題/奥田英朗

◆読んだ本◆
・書名:我が家の問題
・著者:奥田英朗
・定価:1,400円
・出版社:集英社
・発行日:2011/7/10

◆おすすめ度◆
・小市民家族短編小説度:★★
・我が家の危機的問題勃発度:★★
・小さな問題、大きな幸せ度:★★★

◆感想◆
ごく一般的な家族に起きる小さいけれども大きな問題をテーマにした、家族小説集。

面倒見のいい妻がうっとうしく思える夫だったり、両親が離婚の危機にあるのを知ってしまった娘だったり、UFOと交信できるようになった夫を心配する妻だったりが主人公の短編集。
結婚したてから15年目くらいまでの男女が読者ターゲットか。

他人から見れば、「なんだ、それくらい」と思われることでも、家族にしてみれば大問題。
ビックリしたりおののいたり心配したりと大騒ぎ。
そんな様子をユーモアとペーソスを交えて描写。

家日和」の著者らしく、なにげないところに幸せが転がってるんだと思わせる、ほんわかした物語。

平和だなあ。

我が家の問題

奥田 英朗 集英社 2011-07-05
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地方によって料理の仕方や材料が微妙に変化。
「我が家の問題」の中の「里帰り」では、妻の実家に里帰りした夫を客にして、すき焼きにタマネギを入れるか入れないかのダラダラとしたすき焼き談議が。

このまったりした虚無感。
奥様の喫茶店お勘定「ここは私が」「いえいえ今回は私が」みたいなエンドレス会話な風景が、とてもよく描かれてます。

ちなみに我が家ではすき焼きにタマネギはいれまん。

◆関連記事◆
我が家の問題/集英社 WEB文芸(インタヴュー記事あり)
「我が家の問題」書評/WEB本の雑誌
奥田英朗 我が家の問題/本とテレビと映画のブログ
家日和/奥田英朗/サイト内

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純平、考え直せ/奥田英朗

◆読んだ本◆
・書名:純平、考え直せ
・著者:奥田英朗
・定価:1,400円
・出版社:光文社
・発行日:2011/1/25

◆おすすめ度◆
・ユーモア小説度:★★★
・若いヤクザのはかない青春度:★★★
・考え直した方がいいぞ度:★★★★

◆感想◆
歌舞伎町を闊歩するチンピラの純平。歩けばキャバクラのお姉ちゃんなどから気軽に声をかけられる人気者だが、彼には心酔する兄貴分のヤクザがいて…

久しぶりの奥田英朗は、ユーモアとペーソスを兼ね備えたテレビドラマにうってつけな感じの、若く純粋なチンピラが主人公。
ヤクザ組織から体のいい扱いを受けながらも、兄貴分のヤクザのためなら自分の命を捧げてもいいと思う硬派な男。
そんな純平と、彼を取り巻くヘンテコな人々との交流?を通して、「考え直した方がいいんじゃない?」といったクライマックスに向かって展開するお話し。

難しい展開もショッキングな描写も深く感動的なシーンもないけど、どこかもの悲しい雰囲気は、「ガール」のチンピラ版みたいな。

これだけ人気がって人から慕われる純平なんだから、工夫次第ではヤクザな商売から足を洗えるんじゃない?
「純平、考え直せ」って思っちゃうぞな。

本書は書籍版と同時に電子書籍版も配信されているそう。

書籍版だと、税込み1,470円
電子書籍版だと、税込み1,050円

あんまり安くないなあ。
印刷したり運んだり書店で売ったりするのを考えれば、電子書籍はもっと安くてもいいような気がする。
逆に書籍版が安すぎるのか?

◆他サイトの感想◆
よむみるろぐ。
黒夜行

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無理/奥田英朗

◆読んだ本◆
・書名:無理
・著者:奥田英朗
・定価:1,900円
・出版社:文芸春秋
・発行日:2009/9/30

◆おすすめ度◆
・転がり落ちるような暮らし度:★★★★
・安い登場人物のチープな人生度:★★★★
・感情移入すると、なおさら悲惨度:★★★★

◆感想◆
地方都市「ゆめの」に暮らすケースワーカー、高校生、セールスマン、保安員、そして市議会議員。なんとか暮らしを善くしようとあがいているのに、何故か悪い方へ悪い方へと転がって・・・

「最悪」「邪魔」に続く、転がり落ちる暮らしシリーズ第3弾。
登場人物はどこにでもいそうだけれど、ちょっと安っぽい人々。
ちゃんとしているようで、どこか抜けている。
戸梶圭太なら、激安人間におとしめてボコボコにするような奴らばかりだ。

彼らがドンドンマイナス方向に転がって行く。
スカッとしないし、どんでん返しもないし、幸せなシーンもない。
おお、なんかとてつもなく暗いぞ。
それでも読んじゃうのは、現実にありそうなシチュエーションと、どんな風に転がり落ちていくのかへの興味。
最後は「人生にはいいことなんてないんだ」と登場人物が悟ってしまうような展開だ。

でも女子高生がポカポカ殴るのはいいぞ。
もっとやっちゃえっ!
(このシーンくらいしか、スカッとするところがないんだよね)


無理
無理奥田 英朗

おすすめ平均
stars何を言いたいやら
starsあまりに救いがない
starsこの作品に限らず「無理」。
stars笑うに笑えない現代のリアル
starsオチが弱いが、喜劇と悲劇のない交ぜが上手い

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真保裕一と東野圭吾は、なんか似ている。
同じように荻原浩と奥田英朗もたまに間違う。
深い意味はないんだけど。


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オリンピックの身代金/奥田英朗

◆読んだ本◆
・書 名:オリンピックの身代金
・著 者:奥田英朗
・出版社:角川書店
・定 価:1,800円
・発行日:2008/11/30

◆評価◆
・「天国と地獄」のような社会派ミステリー度:★★★★★
・「ジャッカルの日」のようなスリルとサスペンス度:★★★★★
・「蟹工船」のようなプロレタリア文学度:★★★★

◆感想◆
昭和39年、オリンピックを目前に控えた慌ただしい東京で爆破事件が起きる。犯人は「草加次郎」を名乗り、東京オリンピックを妨害するという犯行声明文が警察に送りつけられた・・・

これは面白い!!
昭和39年という、日本が戦後を脱却し高度成長期にあった東京を舞台背景にして、オリンピクという大イベントを妨害しようとする犯人と、その犯人を追う刑事たちのスリルとサスペンスのミステリー小説だ。

前半は犯人の東大生島崎が、工事現場で亡くなった兄の生活を弔うように追体験するシーンがメイン。 オリンピック開催にむけて突貫で行われる土木工事。そこで過酷な労働に従事させられる出稼ぎ労働者。
東大でマルクス主義を学んでいる島崎は、そんな資本家に搾取されてる労働者の中に身を置き、しだいに資本主義の象徴としてのオリンピックを妨害しようと考えるようになる。

蟹工船のようなプロレタリア文学か?」と思わせる前半だが、それがまたけっこう興味深い。
ちょい前の中国のオリンピックを想像させたり、現在の不景気な日本を連想させたりするし、そこに爆破事件をカットバックさせることで、島崎の思考がリアリティのあるものになっている。

後半は黒澤明「天国と地獄」のような構図と展開、フォーサイス「ジャッカルの日」のようなスリルとサスペンス。
犯人の東大生島崎と、刑事の落合の視点で交互に描かれる展開は、手に汗握るぞ!

あんまり書いちゃうと興をそぐだろうから、書かないけど・・・

 犯人島崎のストイックな性格と思想。
 当時の日本社会を見事に切り取った背景描写。
 犯人と警察の駆け引き。
 大捜査網の中の刑事と公安の確執。
 そしてオリンピック開催という時限付。

もう嫌でも盛り上がる仕組みだ。

なにはともあれ、今年一番面白い小説だ!
「このミス」1位の「ゴールデンスランバー」より俄然面白いっ!



ホンダ・S600
ホンダ・S600


本書の中には「ホンダS600」「シャボン玉ホリデー」「反代々木派」などの当時の文化、サブカルチャー用語が沢山出てくる。
これがまた、物語に奥行きを持たせているし、その頃に青春をすごした世代の方には大きな魅力となるだろう。

(ひょっとするとこの小説は、著者の自己批判なのか? 島崎のストイッックさと過酷な労働の従事。デモは都会の若者の盆踊り、とあっさり切り捨てたりするし)

そんな当時の言葉の中で「C調」というフレーズだけが意味不明だった。
調べると「調子いい」という事なのね。

当時も今も、暗号めいたフレーズをいっぱい作っていたという事だ。
フムフム。





◆他サイトの感想◆
最後の本たちの国で
MOONGLOW
棒日記V -I will carry on-


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