だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 最近は新旧歴史時代小説やエンターテイメント、ライトノベルにも手を伸ばして節操のない状態に。趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

聖痕/筒井康隆

◆読んだ本◆
・書名:聖痕
・著者:筒井康隆
・定価:1,400円
・出版社:新潮社
・発行日:2013/5/30

◆おすすめ度◆
・性器を切り取られた美少年の数奇な半生度:★★★★★
・現代小説にして古典の味わい度:★★★★
・著者の「毒気」はどこにある?度:★★★

◆感想◆
紅顔の美少年葉月貴夫は、その美しさが仇となり、性器を切り取られるというむごい事件を招いてしまうが…

性器を失った主人公はどのように成長するのかという「本来の意味でのゾラ的実験」(実際に性器を切り取られたらどんな性格になるのかは知らないけれど、本書で描かれる人格の形成には納得できる)や、「言葉による触発に古語を用いる」(舞台は昭和から平成なのに、忘れ去られた雅やかな言葉を多用し、文章は古典の味わいにして今風の味付け)といった実験的な小説。

カギ括弧がないのにスラスラ読めちゃう文章や、古典に疎い自分でも脚注を参照しながら読むと何故か雅やかな気分にもなれ楽しめるから不思議だ。

さらに主人公のリビドーがどこに向かうのか、その先には何があるのかといった「本来の意味でのゾラ的実験」も、いかにも著者らしく刺激的。

美しすぎる男女が多く登場し一種性の饗宴めいたくだりと、美食家たちを満足させる数々の美味なる料理の対比。 暴力的で死をイメージさせるような弟や、幼い頃から生気に満ち、妖艶ともいえる艶やかさを持った妹の描き方。

帯にあるように「聖と俗」、「性と美食」を対比させながら、そのすべてを包括してしまう主人公の存在。

著者の小説にある「毒気」を、主人公の弟にありそうと当たりをつけていたのだがハズレ。
他の登場人物たちがもつ毒気も、この世の人が持つ罪障も、すべてまとめて「スケープゴート」に収斂してしまったよう。
恐ろしや、男性の「スケープゴート」
それでいて妹が煌めくように美しいのは、一種の神だから?

実際に性器をとっちゃうとどんな性格になるのか。
宦官がとつに有名だが、どうやら女っぽくなるよう。
あたりまえのような気もするが、違うような気もする。
男らしい性格がなくなる、ってことではないのだろうか。

◆関連記事◆
「ゾラ的実験」の新聞連載小説「聖痕」 筒井康隆さん特集/BOOK asahi.com:朝日新聞社の書評サイト
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筒井康隆「聖痕」 石崎徹/まがね文学会

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ビアンカ・オーバースタディ/筒井康隆

◆読んだ本◆
・書名:ビアンカ・オーバースタディ
・著者:筒井康隆
・定価:950円
・出版社:星海社FICTIONS
・発行日:2012/8/16

◆おすすめ度◆
・刺激的ライトノベル度:★★★★
・ライトノベルを超えたエロ&SF&アクション&文明批評度:★★★★
・「ウブメ効果」と「太田が悪い」に大笑い度:★★★★★

◆感想◆
自他ともに認める超絶美少女のビアンカが主人公の、刺激的ライトノベル。
各章のタイトルが「哀しみのスペルマ」「喜びのスペルマ」「怒りのスペルマ」「愉しきスペルマ」「戦闘のスペルマ」と、これだけ見ても普通のライトノベルじゃないことがすぐわかる。

内容は、生物研究部員のビアンカがウニの受精の様子を見るだけでは飽き足らず、人間の精子を採取して受精の実験をしてしまおうという、パンチラだけで終わりっぽいライトノベルを軽く超えちゃう過激な展開。

さらに美少女にそこまでやらすか!なエロな展開ありの、いきなりのSF的展開ありの、取って付けたような文明批評ありの内容。
設定はライトノベルだけれど「ライトノベルじゃないだろう」なトンガリよう。過激です。

ライトノベルのエロは甘い!
ライトノベルのSFは普通すぎる!
ライトノベルのアクションは想定内すぎる!
ライトノベルの文明批評はまともすぎる!
みたいな感じでしょうか。

なんだか昔の著者の小説を読んでいるようで、懐かし楽しく読めた。
「ウブメ効果」と「太田が悪い」が笑いの壷にはまって、思わず「ブハッ」でした。

筒井康隆がライトノベル?と思たけれど、元々ライトノベルな小説も数多くあって、別に驚くことではなかったですね。

◆関連記事◆
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アホの壁/筒井康隆

◆読んだ本◆
・書名:アホの壁
・著者:筒井康隆
・定価:680円
・出版社:新潮新書
・発行日:2010/2/20

◆おすすめ度◆
・アホの文明評論度:★★★★
・アホの人間論度:★★★★
・アホの精神分析論度:★★★★★

◆感想◆
「人間は考えるアホである。」のキャッチコピーが素晴らしい、筒井康隆のアホ論。
人間や人類のアホさを、主に精神分析的に解いた人間論。こんな書名でこんな内容の評論を書けるのは筒井康隆しかいないっ!
ステキだ。
笑えるし、感心するし、納得するし。

内容は目次を見るとおおよそわかるしくみ。
序章 なぜこんなアホな本を書いたか
第1章 人はなぜアホなことを言うのか
第2章 人はなぜアホなことをするのか
第3章 人はなぜアホな喧嘩をするのか
第4章 人はなぜアホな計画を立てるか
第5章 人はなぜアホな戦争をするのか
終章 アホの存在理由について

アホとは書いているが、「馬鹿げた」「大人げない」「狂気の」と言い換えてもいいんじゃないかという真っ当な内容。 それでも著者のこと、「強迫観念症」「焦点的自殺」「失錯行為」「同種既存」といった精神分析的な用語を用いて(これがなかなか刺激的)、口の悪い年増女や無益な喧嘩諍いをおこす男やアホな戦争をする人間どもをバッサバッサと切り捨てるっ!

おもしろいなあ。痛快だし。

読んでると「いるいる、こうゆう変なヤツ!」「アホだよねぇ、もうちょっと頭使えっていうの!」とか思っちゃうんだけど、自分のアホなことには目が向かないのが人間の習性?
人のアホは見えるけど、自分のアホは見えないのね。
ま、だからのんびり幸せに暮らせるんだろけど。

エリス ギリシア神話
トリックスターなエリス/ウィキペディア

それでも本書の最後は「アホ万歳」の一言。
だって著者は筒井康隆だもん。

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ダンシング・ヴァニティ/筒井康隆

◆読んだ本◆
・書 名:ダンシング・ヴァニティ
・著 者:筒井康隆
・出版社:新潮社
・定 価:1,400円
・発行日:2008/1/30

◆評価◆
・実験的後半生回顧録度:★★★
・繰り返される夢の中の夢の中度:★★
・人生は走馬灯のように度:★★★

◆感想◆
いきなりの反復文章に読む方もそれなりの覚悟を決めて、久しぶりの著者の実験的小説を堪能。
なんだか最近の著者の小説は、老いや死といったものがテーマになっていて、読む方も昔みたいに若くないもんだから、それなりにリアルに感じる部分もあった りして、やや寂しくなる。
なんだか私小説を読んでいるような感じだし。
おまけに著者のあったかもしれない半生を追体験している風にも読める。

なんか暗い感じの言い回しになったが、小説自体は相変わらず(?)のブラックでスプラッターなシーンや、反復されるシーンの微妙な違いと映像的な文章の編 集があったりして、とても前衛的だ。
実験的なのにいぶし銀の味わい。すごいぞ。

毎日どうやって楽しようかと考えている自分とは、大違いだ。
自分と著者と比較しようとすることじたい、無謀かもしれないが。
(ステッキで殴られそうだ)

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巨船ベラス・レトラス/筒井康隆

◆読んだ本◆
・書 名:巨船ベラス・レトラス
・著 者:筒井康隆
・出版社:文芸春秋
・定 価:1,143円
・発行日:2007/3/15

◆評価◆
・メタメタフィクション度:★★★★
・文学への懸念と憂い度:★★★
・次世代作家&読者への警鐘と憧憬度:★★★★

◆感想◆
革新的、前衛的な小説や詩を掲載し、文壇に一大旋風を巻き起こそうと創刊された雑誌「ベラス・レトラス」。これに寄稿している人気作家や詩人達の、日常と文学への思索を通して、著者および文学界の行方を模索した小説。

虚構と現実、どれが事実でどこが虚構なのか。さらに混じりあうメタフィクションや作中作品。そんなゆらぐ物語世界を巨大船のラウンジに創りあげた、いってみれば何でもアリの著者らしい小説。

現実の人気作家を思い浮かばす登場人物。どの登場人物がどの作家をモデルにしたのか考えるのも楽しいし、作中作の「山ひらき」はなにやらエロチックでもっと読んでみたくなるし、文学論や差別に関する言及に「うんうん」と頷いたり「???」となったり、同人作家や評論家に対する罵倒に笑い転げたりと、新鮮味はないものの最近の著者の考えのエッセンスを集めて分かりやすく小説にしたよう。

作中の登場人物に語らせているように、本は誰かに読まれないことにはどうしょうもないという、著者の諦観が伺えるような、平易な作風。

美しく前衛的であり続けようとする若い女性作家を、女神のようなシンボルに変えてしまうあたり、孫の元気で気概ある姿が眩しくみえるおじいさんのようで、好々爺してる。
かと思うと、著者本人が物語に登場し、自著の著作権侵害に関する経緯と憤りを滔々と語るあたり、掟やぶりもOKのスーパーぶりに拍手喝采だ。

しかし北宋社はとんでもない人を敵にまわしたものよ。

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壊れかた指南/筒井康隆

◆読んだ本◆
・書 名:壊れかた指南
・著 者:筒井康隆
・出版社:文芸春秋
・定 価:1,571円
・発行日:2006/4/30

◆評価◆
・夢・老・終末を感じさせる短編集度:★★★
・スーパーウルトラくだらない度/大笑い:★★★★
・思いもつかない展開度:★★★

◆感想◆
筒井康隆、7年ぶりの短編集。
短編も短編、全部で30篇。あちこちの文芸誌に掲載されていたものを集約したバラエティに富んだ短編集。

 作家としての強迫観念
 社会的な著者の立場と自身の年令
 著者だから許される型破りの展開

いくつか特徴的なシーンが見られるが、「銀齢の果て」に比べるとシニカル。
著者の日常からヒントを得た題材が多いように思うし、そのためか登場人物に対して突き放した/疎外された印象を受ける。

そんな印象の中、素晴らしくくだらない短編があったりして、思わず大声で笑ってしまう。
普通、文章になったオヤジジョークで笑ったりしないんだが、それが笑ってしまうのは著者の文章テクニックなのか、短編のグレード落差のためなのか。

それにしても「小説に結末がなければいけないという法律はないのだ」と堂々と言ってのけるあたり、一種爽快。

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銀齢の果て/筒井康隆

◆読んだ本◆
・書 名:銀齢の果て
・著 者:筒井康隆
・出版社:新潮社
・定 価:1,500円
・発行日:2006/1/20

◆評価◆
・老人達のバトル・ロイヤル度:★★★
・国家的差別の構図と逆差別度:★★★
・随所に見られる「毒」度:★★★★

◆感想◆
宮脇町5丁目に住む宇谷九一郎77歳は、同じ町内に住む囲碁友達の正宗忠蔵78才に向かい、ゆっくりと懐からワルサーを取り出す。「覚悟、できてるかい」

爆発的に増大した老人人口を調節するため、国家主導で実施される老人相互処刑制度。町内に住む70才以上の老人達が、互いに殺しあうというトンデモ設定のブラック小説。

老人同士を殺させるという反社会的反人間的設定に加え、殺害シーンや断末魔の人間の醜い情動などが、著者らしいブラック&シニカルな文章で描かれる。
カットバック的な描写や、「老人」を代表とする差別に関する記述など、印象的なところも多いが、なんといっても文章から溢れるパワーがすごい。
70才を過ぎ、これだけのとんでもない小説を書く著者に驚く。

しかしこの感想こそ、著者がもっとも嫌うものかも。
老人だからといってバカにしちゃいけないし、過保護にしてもいけない。
また手厚く看護されることを当たり前のように感じてはいけないと、70才をこえた著者は思っているのだろう。

年寄りだと思ってバカにスンナよ! みたいな。

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